Anthony Bradley氏
米Gartner
Managing Vice President
Anthony Bradley氏

 インターネット上にあるブログやソーシャルネットワーキング・サイトには、毎日個人の発言が数え切れないほど書き込まれる。それらは相互につながり、仮想的なコミュニティを形成する。そのコミュニティは大きな力を持つ。これがITの社会化だ。米Gartnerのアナリスト、Anthony Bradley氏はこのようなネットコミュニティの力を自社の活動に取り込めるかどうかが、今後の企業競争力を決めると主張する。 (編集・構成は矢口 竜太郎=日経コンピュータ)



 技術が企業だけでなく、人々にも力を与える時代となりました。ITの社会化という革命が起きたのです。この新しい世界を勝ちぬくためには、コミュニティを動かし、ばく大なその力を活用する必要があります。

 1876年、マーク・トウェインが描いた「トム・ソーヤー」は、フェンスのペンキ塗りをしなければならなくなりました。完全主義者だったら、自分一人で仕事を仕上げたでしょう。経営者だったら、ペンキ塗りチームを雇ったことでしょう。

 トム・ソーヤーは違っていました。トム・ソーヤーは、ペンキ塗りとは楽しいことだと仲間に信じ込ませ、仲間にやってもらったのです。作業をコミュニティに配分すること。これがITの社会化のポイントです。

 人類は長い間、社会的なつきあいをしてきました。それこそ、人類が生まれたときからずっとです。コラボレーションは別に新しいことでも何でもありません。知識の共有も昔からしてきました。では、何がそんなにすごいのでしょう。

 それは「大規模であること」です。大きいことはいいことなのです。ITの力により、千人単位、十万人単位、あるいは百万人単位の人がコラボレーションして大規模な文書を構築する。大規模なコンテンツリポジトリを構築する。大規模な社会構造を構築する。こんなことは人類史上、かつてなかったことです。

企業内にも社会化は起きている

 FacebookやMySpaceなどのソーシャル・ネットワーキング・サイト全体を合計すると、月に訪問者数は9000万人以上、訪問回数は13億回以上にも達します。Facebookは生まれてまだ4年ですが、その価値は150億ドルと見られています。これは、GMやフォードよりも大きな数字です。

 昨年、ブログ検索サービス大手のTechnoratiは、インターネット上には7000万ものブログがあり、それが200日ごとに倍増していると見積もりました。ブロゴスフィア(本誌注:インターネット上に存在するすべてのブログによって構成される共同体の総称)の成長速度はすさまじく、平均して1日に12万のブログが新設され、投稿エントリーは1日に1700万にも達していたのです。

 このように参加型のコミュニティ、ユーザー駆動型のコンテンツは爆発的に増えていますが、これは、ネット企業に限った話ではありません。

 モトローラはエンジニアリングコラボレーション環境を用意していますが、そこには7万4000人のユーザー、5400のブログ、4500個のウィキがあり、全部で50テラバイトもの情報が蓄えています。

 日産自動車の「N-Square」というソーシャルネットワークは、世界各地に散らばる5万人の社員をつないで、社内コラボレーションを後押ししています。ビジネスコンテンツの作成も大きな進化を経て、社会化の段階まで到達したわけです。

コミュニティを育てる力が企業の競争力に

Anthony Bradley氏

 最初は、パソコンの登場により、自分のコンテンツを作れるようになりました。次に、各自の作業結果を、協力者となる可能性のある人々に配布できるようになりました。そして今は、各自が作業結果を送付するのではなく、我々人間が、それもすさまじい人数が情報のあるところへ行けるようになったのです。コラボレーション作業による果実が主役となる日が来たのです。個人による作業と集合体としての作業の境界がなくなったのです。

 アプローチがこのように進化した結果、多くの人がマスコラボレーションを行うようになりました。マスコラボレーションでは、従来とは異なる姿勢が必要になります。

 ほとんどの人は、自分の生産性を高める方法なら分かっているはずです。おそらく経営者のみなさんは、自社チームの生産性を高める方法なら分かっていると言われるでしょう。では、コミュニティの生産性を高める方法はどうでしょうか。いったいどれだけの人がこれを把握しているでしょうか。いったいどれだけの人がコミュニティを発掘し、意義を明確にし、成長させ、動員して、コミュニティとの協力を通じて課題を解決し、ビジネスの価値を引きだす方法を把握しているでしょうか。

 しかも、これがグローバルなコミュニティとなれば、コラボレーション実現の課題もそこで得られる成果も指数関数的に巨大なものとなります。自社の将来像を大きく変える力を持つコミュニティを活用できるかどうかが、自社の競争力となるのです。