スーパーマーケットを展開している顧問先企業を訪ねたときのこと。社長との挨拶もそこそこに,子会社である配送センターの,急速な収益悪化に対する恨み節を聞かされるハメになりました。
「ガソリンや軽油などの燃料代がこうも急騰しては,たまったものではありません。政治力を動員して,たとえ1円でも補助してもらえる業界が羨ましいですよ」
ガソリン価格の推移を見ると,レギュラー1リットルあたりで2008年5月に150円の価格だったものが,7月には180円を突破しましたからね。
「たった3か月間で20%の上昇(図1)ですから,頭が痛いです」
「こんなことなら薄利多売の商売などやめて,定期預金に預けておくほうが無難ですね」
それはあり得ないですよ。定期預金は常に「目減り」するものであり,物価上昇時には特にそれが激しくなりますから。
「目減りというのは,おカネの価値が下がることでしたよね」
そうです。原料高など「モノ」の値段が上がることばかり騒がれていますが,それに反比例する形で「おカネ」の価値が下がっていることを忘れてはいけません。
例えば,大口定期預金の1年ものの金利は,0.5%程度です。これを「名目金利」といいます。先ほどのガソリン価格の上昇率20%を,ここでは物価上昇率とみなすとしましょう。この物価上昇率を加味した「実質金利」で,定期預金の金利を捉える必要があります。
「定期預金の名目金利0.5%から,物価上昇率20%を差し引く,ということですか? ▲19.5%(=0.5%-20%)になって,こいつは大変だ」
そんな単純な計算ではありませんよ。いくつかの段階に分けて考える必要があります。
まず,図1の20%を,年率ベースに換算することから始めます。ここでは8月以降の価格変動を考慮しないことにします。計算は,次の図2の式によります。この式は,四半期ごとに発表される,国の経済成長率を年率換算する場合などに用いられます。
図2にある107.4%の意味って,わかります? 1年間で物価が2倍超になることを示しているんですよ。
「げっ……」
ただし,図2は,1年間にわたって価格が持続的に上昇することを前提としている点に注意する必要があります。8月以降,高値とはいえリッター180円のまま安定すると仮定するならば,107.4%のような酷い値になることはありません。ある一定期間だけ価格が上昇し,それ以降は安定する場合,図2の計算によらず,「実勢」という概念を使います。
実勢の計算は複雑なので,計算結果だけを次に示します(図3)。
ケース1:1月から4月にかけて,150円から180円まで上昇。 5月以降12月までは180円で安定 →実勢物価上昇率:16.7% ケース2:1月から3月まで150円で安定。4月から7月にかけて, 150円から180円まで上昇。8月以降12月までは180円で安定 →実勢物価上昇率:11.7% ケース3:1月から8月まで150円で安定。 9月から12月にかけて,150円から180円まで上昇 →実勢物価上昇率:3.3% |
「実勢というのは,値上がりする時期によって異なるんですね」
ここでは図3のうち,ケース2の実勢物価上昇率11.7%を使って,定期預金の名目金利0.5%の「実質金利」を求めることにします。
図4の意味するところは,年利0.5%の定期預金に預けておくことは,年間で▲10%ずつ減少することを表わしています。これが「目減り」です。名目・実勢・実質を区別することによって浮き上がる,金利の違いです。
「預金の利息収入に頼っていては,早晩,行き詰まるということですか」
社長のボヤキは,次回も続くのでした。
■高田 直芳 (たかだ なおよし) 【略歴】 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。 【著書】 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。 【ホームページ】 事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」 (http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/) |