アクセンチュア
システムインテグレーション&テクノロジ本部
インフラストラクチャコンサルティング統括パートナー
森 泰成
経営コンサルティング本部
戦略グループ コンサルタント
杉原 雅人
前回,グリーンITの重要性・可能性について説明した。ともするとグリーンITの最新テクノロジーにばかり目を奪われがちだが,今回は,そもそもグリーンITを組織の中でどのように推進していくべきかについて,外部への情報発信と,内部での目標策定・実行の両面の視点で考えていきたい。
グリーンITの効果を外部にどう伝えるか
グリーンITへの世間の関心が高くなった結果,情報システム部門も環境部門と協力してCSRにどう応えるのかを問われるようになってきた。国内でも,洞爺湖サミット前後より,グリーンITを訴求するコマーシャルやニュース・リリースを見る機会が多くなったが,欧米での先行事例から,一つ,注意すべきことをお伝えしておきたい。
欧米では,早くから,各ステークホルダーの環境への関心が強く,その取り組みを評価する具体的な動きが顕著であった(図1)。
欧米の企業の多くは,グリーン・マーケティングという考えの下,積極的に自社の環境への取り組みを発信してきた。しかし,消費者の環境への関心が高いがゆえに,企業のグリーン活動はシビアな評価にさらされ,時にその発信はグリーン・ウォッシングと評され,逆効果を生むことさえあった。欧米では,グリーン・ウォッシュの監視サイトはインターネット上に多数あるため,グリーン・ウォッシュ指標はメディアの注目を集めている。
日本の企業が,意図的に環境に配慮しているようにごまかすということは考えにくい。しかし中には,実際には一部門の活動を全社的な取り組みとして誤って解釈されたり,もしくは,根拠や妥当性が不明な指標を利用していたり,世間の誤解を生みかねないケースが散見される。
情報システム部門と比較してIT知識が不足しがちな環境部門や広報部門と協業する際には,環境への取り組みが正しく評価されるよう,アピールポイントのみを訴求するのではなく,(1)対象の明示,(2)比較可能な基準の適用,(3)ライフサイクルアセスメントの考慮──の3つのポイントをおさえておくべきである。以下にそれぞれについて説明する。
(1)対象を明らかにする
現在,「地球温暖化対策推進法」に基づく報告では,企業はどの程度IT機器・設備がCO2を排出していて,どこまでITの施策効果があったのかを公表する義務はない。ゆえに,グリーンITの効果の公表範囲は各企業で任意に決めればよいこととなっている。ただし,効果を発表するときは,効果が一部門かグループ全体か,いつを基準にしてどのように測ったのか,注釈することが必要である。
(2)業界・他社と比較可能な基準を用いる
全社のCO2排出量の評価指標は,各業界別の団体・組織で,その事業特性に合わせた自主活動目標として明確に定義されている(実質生産高原単位など)。これに対して,グリーンITに限った指標としては,現在,PUE(Power Usage Effectiveness;データセンターやサーバー室のエネルギー効率を示す)という指標がやっと認知されてきたところで,まだ,その測定条件が各社でばらばらである等の課題が残っている。
しかし,ここ数年以内には,各国の環境行政,ベンダー,業界団体が,指標の体系化・標準化を加速することは間違いないため,その動きをウォッチし,歩調を合わせることが重要である。
(3)ライフサイクルアセスメントを考慮する
環境問題は,全体最適が重要であり,企業活動のある部分のCO2が削減されたとしても,企業の外部でより大きな環境負荷がかかっているリスクがある。例えば,利用時に排出されるCO2を削減するために省エネ機器に買い換えるのはよいが,その生産時に工場で排出されるCO2まで考慮すると,今の機器を長く利用したほうがよいという考えもある。例えば,平均的なパソコンの製造に要するエネルギーは,パソコンが通常の寿命で消費するエネルギーの80%に相当する。
海外では,あるメーカーが,利用時のCO2排出量が大きく削減された製品として訴求したところ,実は,それは環境に悪影響のある化学物質を生産時に一部利用しており,大きく糾弾されたという事例もあった。常に,ライフサイクルアセスメント(LCA)の観点で,効果のみならず,リスクやデメリットも総点検して,フェアな情報を提供することが重要である。