部品化にあたり、開発言語をCOBOLからJavaに切り替えた。部品化の作業を通じて、従来は全世界で1048あったジョブ(COBOLにおける一連の処理単位)を、約600の部品(モジュール)に規定しなおした。

 この部品単位で、メインフレームのCOBOLプログラムをJavaプログラムへ変換した。その際に、部品が持つ機能を共通のやり方で呼び出すためのインタフェースを規定した。これで部品を「サービス」として自由に組み合わせて利用できる。

 部品化を推進できた前提として、前述のアプリケーションの棚卸しに加え、全社的なマスターデータ体系をあらかじめ標準化していた点も挙げられる。マスターデータの体系を統一しておかないと、同じ商品なのに経理部門と購買部門では異なる商品コードを採用するといった事態が発生し、部品を組み合わせるシステムづくりが困難になる。

 標準的なデータ体系は専用の共通データベース(リポジトリ)で管理している。開発時はそれと照らし合わせて、データの整合性をチェックする。各部品で扱うデータも標準データ体系に準拠させた。

 実装の形態に関しては一般的なSOAの進め方にこだわらなかった。SOAでは共通部品(サービス)を1カ所で動作させ、各ユーザーが共同利用する形がよいとされる。しかし日産は、共通部品のコピーを各工場のサーバーに置くことにした。共同利用にしたほうが標準化の徹底や運用コスト削減につながるが、「生産管理は当社にとって基幹中の基幹システム。パフォーマンスや万 一のダウンのことを考えれば、部品の共同利用はリスクが高すぎる」(大関主担)と判断した。

他分野への展開が課題

 SOAアプローチに基づいて新規に開発したのが、昨年6月にカットオーバーした「KDシステム」だ。KDはノックダウン(knock down)」の略。他国で生産した部品を現地で組み立てて販売する「ノックダウン生産」のための仕掛品のサプライチェーン管理システムがKDシステムである。

 KDシステムを開発するにあたり、世界中にある既存システムのアプリケーションを部品化しておき、部品の組み合わせで開発した。これにより開発期間が短縮。結果として従来手法で開発した場合に比べ、年間で36%のコスト削減につながった。年間2190万円のコストがかかっていたが、1410万円程度に収まった計算だ(図6)。この成果を基に、今後は他の分野へもSOAアプローチを展開していく予定だ。

図6●部品化とダウンサイジングによる効果
図6●部品化とダウンサイジングによる効果
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 成果を上げている日産のSOA戦略だが課題もある。生産管理以外のシステムへの展開がそれだ。生産管理の場合、長年のカイゼン活動の結果から日産流の洗練されたビジネスプロセスが存在していたので、既存システムからそのまま部品を抽出できた。

 しかし、ビジネスプロセス自体を見直す必要がある領域にSOAアプローチを適用するとなると話は別だ。販売やマーケティング、CRM(顧客情報管理)といった領域である。最適なビジネスプロセスを再定義するには、関係する部門の担当者と協議しながら、部門横断的にあるべきビジネスプロセスを模索しなければならない。この領域でもSOAに基づくシステム刷新を実行できるか。日産の挑戦は続く。