野村総合研究所のチーフエコノミストであるリチャード・クー氏が7月のメディアフォーラムで、今の世界経済は「戦後最大の危機に直面している」と話した。だが、日本人に深刻さがピンとこないのは「世界で東京の金融市場だけがうまく機能しているから」だと言う。そして、この憂える事態は「ITバブル崩壊が原因」。つまり資金需要がITから住宅へ誘導された結果であるとクー氏は指摘した。確かに、90年代後半のシリコンバレー企業に対するIPO(株式公開)狙いの投機熱や企業のIT投資は尋常ではなかった。

 米ダウジョーンズによれば、今年の第2四半期(4~6月)のIPOが米国でついにゼロ件となり、M&A(企業合併・買収)も42%激減した。景気の減速が企業支出に影響を及ぼしている。それでもM&A金額の73%をIT企業が占め、IT業界の資金流動はいくらか機能しているようである。しかし、好調を持続してきた米ヒューレット・パッカード(HP)の第2四半期の米国内売り上げは1%減に転じ、先行き不透明の影を落とす。一方、米IBMは米国内で5.0%売り上げを増やし、独SAPが同9.3%増、米シスコが同5.6%増。南北アメリカで見ると米オラクル同18.4%増、米アクセンチュア同13.4%増と好調だ。EDSは同6%減収。企業によって異なるものの、米国内あるいは南北アメリカ地域が、全社的な売り上げの伸びを下回っている。

 翻って国内メーカーの富士通は、伸びを支えてきた海外から国内頼みの様相が鮮明になった。第1四半期(4~6月)は、全社的には0.9%増だが、売り上げの6割を占めるテクノロジソリューションの国内売り上げは8.1%増と高い()。日立も同様に情報通信事業は国内の伸び率が大きい。NECも加え3社共にハードの売り上げが回復してきたのも特徴である。原料価格高騰と米経済減速に伴い通期業績を修正する日本企業が増える中で、3社は通期の業績予想を修正せず強気の姿勢だ。

表●IT企業各社の四半期別売り上げ伸び率比較(年度:4月〜翌年3月)
表●IT企業各社の四半期別売り上げ伸び率比較(年度:4月~翌年3月)
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 しかし競争力の源泉ともいえる原価率を見ると、IBMが56.8%なのに対し、富士通は74.0%。以前より5.6ポイント改善したが、まだ17.2%の開きがある。

 国内3社と比べ、日本IBMだけが3四半期減収が続いているが、ドルベースだと4~6月は13.1%増。同様に国内ではSAPが3.6%増、シスコが10.2%増とドルベースでは伸びている。しかし日本IBM同様、円ベースだと予断を許さない。国産3社の国内市場での好調さが持続するかどうかの判断は難しい。

 金融絶不調の中にあっても、米金融大手のIT投資はひるむところがない。IBMの6月の調査によると、米200の金融機関の39%が08年のIT投資を「増やす」とした。減少は20%。09年は41%が増加させる。日経コンピュータ誌の昨年秋の調査で08年は国内の金融がIT投資を11%減らすと回答したのとは対照的だ。