素人でも簡単に利用できるソフトウエアやツールが増えている。見た目もわかりやすく,臨機応変に対応できて,しかも安い。使い勝手も良い。だからといってこうした製品を,利用部門の判断だけで安易に使い始めると手痛い失敗をすることがある。業務に情報システムを使うのであれば,専門家のチェックをはずすのは危険である。情報システム部門と利用部門との間の真のチームワークが今こそ求められている。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 電機メーカM社の営業部では,部内に販売代理店サポート・チームを発足させることになった。販売代理店に対する支援の強化が狙いである。サポート・チームの発足に併せて,代理店情報のデータベースを構築することも決まった。これまでは売れ筋情報などを見るのに,全社で管理している販売情報データベースの中から代理店経由の数字を拾い出してから,各自が表計算ソフトなどを使って分析していた。

 今回の代理店情報データベースには,代理店代表者の個人情報,商品取り扱いの履歴,各種イベントや研修会に関する情報,地域やグループによる実績の分析など代理店活動に関するあらゆる情報を網羅する。データベースはスピーディに使いこなせるように,現場で簡便に使いまわしのできるものを目指した。その上でいずれは全社のデータベースと連携させて,代理店の経営相談や指導にまで活用できるようにするという意欲的なものだ。

 計画は本決まりになったが,M社の業績はここ1~2年,売り上げ・利益ともに伸び悩んでいる。新たに大きな情報化投資をすることは難しい。大がかりなデータベースを新規構築するとなると時間がかかるという問題もある。そこで,代理店サポート・チームの中で何とかやれるところまでやってみようということになった。

 サポート・チームのメンバーにあたってみると,若手のSさんがパソコン好きで普段からさまざまなソフトを個人的に購入して使っていることがわかった。彼に尋ねたところ,「K社のデータベース・ソフトがいい」と自信を持って推薦してきた。早速試しに使ってみると,確かに素人でも使いやすく価格も安い。そこでSさんを中心にして顧客データベースを構築することになった。

 データベースのプラットフォームに部門サーバーを使うとなると,情報システム部門の許可がいるし,面倒な制約もある。そこで営業部の中だけで限定的に使用することにして,当面はSさんのパソコン上にデータベースを構築して全員で使うことになった。

 Sさんが導入したソフトは,特別な知識がなくても馴染みやすく,項目の追加や削除も自由にできる。そこでとりあえず,すぐにも必要な機能から使い始めてみることになった。必要な機能を洗い出すために,Sさんは営業部のメンバーに「欲しい機能」を列挙してもらって一覧表を作成した。さらに今まで各人が独自に蓄積していた情報も提出してもらって,新しいデータベースに追加した。Sさんの頑張りが功を奏して,代理店情報データベースは着々と完成に近づいていった。