RADIUSとDiameterの違いを,実際の動作に基づいて見てみましょう。「フレッツ 光ネクスト」では,広い範囲でDiameterが使われていますが,ここでは電話をかける際にどのようにDiameterが使われているかを見てみます。

 ここまででDiameterについておぼろげながら分かっていただけたのではないかと思います。最後に,RADIUSとDiameterの違いを,実際の動作に基づいて見てもらいたいと思います。

 NTT東西地域会社が2008年3月31日に同社の次世代ネットワーク・サービス「フレッツ 光ネクスト」(通称:NGN)では,非常に広い範囲でDiameterが使われています。全部を紹介できないので,ここでは電話をかけるときにどのようにDiameterが使われているかを見てみることにします。

 フレッツ光ネクストでは,電話をかける際,SIP(Session Initiation Protocol)という呼制御のためのプロトコルを使います。

 まずユーザーAが電話機を上げて,相手先であるユーザーBの電話番号をダイヤルします。すると,ユーザーA宅に設置されたホーム・ゲートウェイがネットワークに呼制御サーバーに対してユーザーBの電話番号を入れたパケットを送ります。呼制御サーバーはその電話番号からユーザーBのIPアドレスを割り出し,ユーザーB宅のホーム・ゲートウェイを呼び出します。ユーザーBのホーム・ゲートウェイは呼制御サーバー経由でユーザーAのホーム・ゲートウェイにIPアドレスなどの通信に必要な情報を伝えます。ユーザーAのホーム・ゲートウェイはユーザーBのホーム・ゲートウェイを直接呼出して通話が始まります。通話の終了は,どちらかが呼制御サーバーを介して,通話の終了を意味するメッセージを投げ,それに対してもう一方が応答して終わります。

 さて,通信会社としては,この間,二つのことをしなければなりません。一つは通話時間の記録です。誰がどこに何分話したのかということを記録しておかないと,料金を請求できないからです。もう一つは通話用の帯域の確保です。NGNの網には,映像などの大容量のデータが流れます。通話中,急にこうしたデータが流れ始めると,帯域が圧迫されて,通話が途切れたり,極端に音質が悪くなったりする危険性があります。そこであらかじめ,ユーザーAとBの間のネットワークに他の通信で使われてしまわないように,帯域を確保しておくのです。

 この通話の記録,帯域の確保ともにDiameterが使われています(図4)。まず,通話の記録では,ユーザーAのホーム・ゲートウェイが呼制御サーバーを呼び出したときに,呼制御サーバーと課金を記録するサーバーの間でDiameterの通信が始まります。そして,ユーザーBからユーザーAのホーム・ゲートウェイに返信されるときに,課金を開始する合図がDiameterのプロトコルを使って通知されます。最後,通話を終了するときには,呼制御サーバーを介して通話終了を意味するメッセージが流れるので,ここで呼制御サーバーは課金サーバーに通話が終了した旨を伝えます。

図4●NGNでのDiameterの動作
図4●NGNでのDiameterの動作
通話する2地点間の帯域の確保や課金のための情報のやり取りに使われている。
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 一方帯域確保では,Diameterのプロトコルを使って「100kビット/秒を確保せよ」という指令をユーザー間の全ルーターに通知します。具体的には,呼制御サーバーがユーザーAからユーザーBへの通話要求を受け取った際,帯域を制御するサーバーに発信元と着信先の間の帯域を確保するように指令を送り,この帯域制御サーバーが各ルーターに帯域を用意するように指令を送ります。

 どうでしょう。Diameterがどのように使われるかイメージがわきましたでしょうか。

吉田 伊津子(よしだ いつこ)
アクセンス・テクノロジー
2001年にアクセンス・テクノロジー(http://accense.com/)入社。RADIUS認証サーバー『fullflex』 シリーズの開発およびテクニカル・サポート業務に携わるかたわら, IETF,JANOG,ShowNetなどの国内外のネットワーク関連イベントに積極的に 参加し,見識を広める。現在は,システム管理のマネージャーを務め, システムの企画から,設計,導入,運用にまで携わる。