秋山 進
プリンシプル・コンサルティング合同会社代表社員

 これから「内部統制の新ルールを周知徹底するための方法論」というテーマで話を進めていきたいと思います。みなさんの会社の内部統制の進行状況はいかがでしょうか。すでに様々な変更が実施済みの会社もあるのではないかと思います。私たちもいろいろな会社の内部統制プロジェクトをやらせていただいているのですが、いまだに苦労が続いている会社が多いようです。

 さて、今回お話するテーマは、その先にあることです。

 新しい規程ができたり、新しい業務フローが確定したあと、具体的にその新しい仕事を社員の人たちにどのようにして学んでもらい、どのように慣れてもらえばいいのか、こういったことについて、これから数回かけてお話させていただこうと思っています。

内部統制はこれからも大変

 さて、読者の多くの方は、これまで内部統制の旗ふり役として、大活躍をされてきたことでしょう。しかし、これからも、これまでと同じくらい大変なことを成し遂げなければなりません。ここで力を緩めてしまうと、これまでやってきた活動の効果が半減してしまいます。そもそも、大きな仕組みを変える“変更マネジメント”はたいへん難しい仕事です。その中でも今回の内部統制に関連する変更は、最も難しいものになると考えられます。

単独から複数へ、事後から事前へ

 なぜかと言うと、まず普通の変更は、いろいろな無理や無駄や、こんがらがっているものを上手にまとめて、仕事の流れをよくするものです。ところが内部統制の文脈では、むしろ業務をややこしくすることが多いのです。たとえば、これまでは一人が、発注をして、かつ検収している。発注した当人が検収するわけですから、よく理解しているので紙に書いて残さなくてもわかりますし、それを人に伝達するようなこともしなくても仕事は回ったわけです。ただ、その方法だと当然のことのように不正の芽が忍び込み、ミスが起こるので、仕事を複数人でわざわざ分担し、お互いにチェックしあいましょう、というのが“統制”です。

 わざわざ分けるということは、分ける際にどのような分担の仕方をするかを明確に決めておかなければなりません。また属人的な仕事のやり方を排し、会社としての正しい業務を明確にして、それを守ることも必要です。このような変化の結果、むしろ仕事の流れは悪くなりますので、働く人にとっても決して楽な変更とは言えないものなのです。

 同じように、これまでは基本的に予算の枠のなかに収まっていれば、事後承諾でOKであったことが、事前に承認を受けることが求められるようになってきます。そうなると事前に申請して承認をもらって、また事後に事前の承認とあわせてチェックをするという作業になるわけですから、業務量が2倍以上になります。

非公式から公式へ、記憶から記録へ、無検証から検証へ

 また、これまではいろいろなことが阿吽の呼吸で非公式に決まり、最後に上司のハンコだけをもらうということが多かったものです。これを、会議体を開いてディスカッションし、会社のあるべき価値判断基軸に基づいて、合理的に決めていくという公式的な仕事のやり方に変えていきます。

 さらにこれらの経緯をきちんと文書に残します。いままでだと、記憶の世界で「だいたいこういう風に決まったんだよね」って言って済んでいたものを記録することになるのです。そうなれば、今度はどんなかたちで記録をするのか。記録した文書はどこに保存しておくのか。改竄されないようにするためにはどうしたらいいのか。どういう媒体に、どのくらいの期間保存しておけばいいのか。そういったようなことも決めて、皆で実行することが必要になってきます。

 また、これまでは終わってしまえば誰もチェックしなかったものを、内部監査室の人たちが監査していきます。または、それぞれの事業部で担当が再チェックをかけるといったことをやることになります。

増大する複雑性

 このように複数の人が関わるということは、Aさんの仕事が終わらないとBさんの仕事が取りかかれないといった、仕事のタイミングにも注意しなければなりません。クリティカル・パスを意識しないとムダが発生してしまうのです。また、会社によって異なりますが、今回の内部統制では、情報システムも一緒に大きく変わる会社も多いわけです。となってくると、現場の仕事の複雑性が突然大きくアップするのです。今進めている内部統制が、最終的に現場にかけることになる負担は、文書化等で現場を動かす負担の比ではありません。

続く

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。


秋山 進 (あきやま すすむ)
プリンシプル・コンサルティング合同会社代表社員
リクルートにおいて事業開発などに従事したのち、複数の業界トップ企業においてCEO補佐として経営戦略の立案を行う。その後、企業理念や行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事し、産業再生機構の下で再建中であったカネボウ化粧品ではCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。外資系コンサルティング会社取締役を経て現職。京都大学経済学部卒。著書に「それでも不祥事は起こる」(8月末出版予定 日本能率協会マネジメントセンター)、「社長!それは「法律」問題です」、「これって違法ですか?」(共著:日本経済新聞社)、「法令遵守時代のビジネスNG事例集50」(監修:R25新書)など多数