2008年5月21日に都内で開催された「行財政改革シンポジウム2008」より、東京都 会計管理局管理部新公会計制度担当課長 神山 智行 氏による講演「東京都における公会計制度改革の実践」の概要をお届けする。(構成:清浦秀人=フリーライター、写真:垂井良夫)
平成11年7月、臼杵市に遅れること約2年で、東京都は初めて官庁会計の決算組替方式により貸借対照表を作成しました。この年の4月に石原都知事が誕生し、最初の第1期目の選挙公約の中で「東京都にバランスシートを導入する」と掲げた結果です。
東京都では、「機能するバランスシート」との名称で平成10年度決算から17年度決算まで公表してきました。こうした取り組みの中、14年5月に「複式簿記・発生主義会計の導入」を表明、その後準備を積み重ねて18年4月に新公会計制度を導入しました。そして、19年9月に新制度による初の財務諸表を公表し都議会にも提出、審議をいただきました。
東京都の新公会計制度の特徴
東京都の新公会計制度については、詳しくはWebサイトでも公開している「東京都の新たな公会計制度 解説書」(平成20年4月)をご覧いただければと思います。ごく簡単に言うと、東京都の新公会計制度は従来の官庁会計――単式簿記・現金主義会計とともに複式簿記・発生主義会計を同時に会計処理を行い、決算期に従来の官庁会計決算書と財務諸表を作成する、というもので、次のような特徴があります。
・職員負荷のほとんどない財務会計システム
東京都の仕組みはリアルタイム仕訳方式(予算執行をする際に、一件一件の債務調停、支出命令時に複式簿記の借方貸方の仕訳を行う)のため、わずかな新規入力を行うだけで処理が可能。
・会計基準の基本的な考え方が国際公会計基準と同じ
世界約120 か国、160 団体が加盟する世界会計士連盟の国際公会計基準審議会でつくられている基準が国際公会計基準です。東京都の会計基準も、これと同じ考え方に則っています。
・各部署において制度運用し、財務諸表を作成
その仕組みから、日常的にも決算期にも各部署で複式的な処理を行って財務諸表をつくっていくので、業務を通して意識改革ができる。
・住民に分かりやすい財務諸表
国際公会計基準に準じる一方、民間の企業会計原則に準拠しつつ行政の特質を取り入れているので、住民にもわかりやすい。
決算組替方式による財務諸表(機能するバランスシート)との違いについては、(1)正確性の向上、(2)作成の迅速化、そして、(3)会計別、組織別、事業別など多様な財務諸表の作成ができることになったことなどが挙げられます。
新公会計制度による財務諸表の作成
次に、実際の財務諸表の作成について、ご説明します。
まず、資産管理システムのデータとの照合を行います。過去においてきちんと処理ができていれば、ここは当然に両者は一致するのですが、実際には照合するとゼロにならないものがどうしても出てきます。これはシステムではなく職員が見なければいけない部分になると思います。昨年やった最初の財務諸表作成のなかで一番大変な作業でした。
次に、財務会計システムのデータの点検を行います。収入未済、投資有価証券、貸付金などについて、官庁会計の方での関連の資料と財務諸表を突き合わせて点検します。昨年は大きく11回点検をしました。今年は13回くらいやろうと考えています。
さらに引当金の計上・固定から流動への振替の作業、そして、注記の作成を行います。東京都会計基準では、「重要な会計方針」「重要な会計方針の変更」「重要な後発事象」「偶発債務」「追加情報」「その他」などの注記事項を定めました。
決算整理作業で生じた課題としては、まず、職員の作業負担が挙げられます。日常の業務においては負担感がないということは先ほど申し上げた通りではありますが、財産については資質執行と資産金額が1対1でない場合が多く、照合作業が大変でした。現在、システム的な改善を行っているところです。
担当者の知識不足。理解不足ということもありました。会計を担当する職員と比べると、他の職員の意識はそこまで高いとは言えず、作業が滞る部分もありました。そのほか、財務会計システムと財産や負債のシステムとデータ連携も今後の課題です。
これら課題については、6月から始まる財務諸表の作成までに、システムの仕様改善ですとか、事務改善に務めています。ただし、1年ですべてて完璧になるというものではなく、毎年毎年、事業改善をしていかなければならないと思っています。
今後の活用に向けた取り組みについても、いくつかお話ししたいと思います。
アカウンタビリティという観点からは、都財政全体(マクロ)の説明として、都の議会への提出等、また、色刷りの「東京都の財務諸表」という冊子を作り分かりやすく住民に公表をしていくという取り組みを行いました。個別事業(ミクロ)の説明につきましても、各局の決算特別委員会、分科会の方に出すものに事業別、あるいは主要施策の成果の方へも反映されるということを行いました。
財務諸表の精度を今後さらに向上させるという点については、(職員の作業量の増加などを考えると)どこまで向上させるのか悩ましいところがあるのですが、例えば仕訳チェックマニュアルの作成、複式についてきちんと仕訳をなされているかどうかの検査、あるいはそれにともなってのシステム改善、照合マニュアルを作っての全照合などに取り組んでいるところです。
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