生物多様性保全の大切さを経済面から分析した報告書が発表された。2050年の生物多様性の状況を予測し、森林損失に伴う経済的損失が年間最大3.1兆ユーロに上り、世界はGDPの6%の損失を被ると報告した。
温暖化対策の重要性を経済的観点から説いた報告書「スターン・レビュー」(2006年)は有名だが、その生物多様性版ともいえる報告書が5月末に発表された。「生態システムと生物多様性の経済」と題するもので、報告したのはドイツ銀行取締役のパバン・スクデブ氏。ドイツで開かれた生物多様性条約締約国会議(COP9)の目玉として発表された。
この“スクデブ・レビュー”では、人間活動が生物多様性や生態系に与える影響を分析するのに、OECD(経済協力開発機構)の定量的シナリオ技法(GLOBIO)で予測した将来の生物多様性の状況を報告。種の多様性を示すMSAという指標を用い、2000年から50年にかけて世界でMSAが11%減少するとした(図)。特にアフリカやインド、中国、欧州で損失が大きい。
世界では本来の生物多様性のレベルから2000年までに既に27%が損なわれてきたが、50年までに陸上でさらに11%が失われる。農地になるなどして失われる自然地域は、50年までにオーストラリアの面積に匹敵する750万km2に上るとした。
海洋汚染や白化現象などで、2030年までにサンゴ礁の60%が失われ、価値あるマングローブの損失によって生物の繁殖地や、嵐や津波の緩衝地帯が大幅に減少するとも指摘した。
生態系サービスなどを考えると、2000年から50年に世界で失われる森林に伴う経済的損失は年間1.35兆~3.1兆ユーロ(230兆~530兆円)に上り、世界はGDP(国内総生産)の合計の6%に当たる損失を被るという衝撃的な数字も打ち出した。
報告書作りは、ドイツ政府と欧州委員会、国際自然保護連合(IUCN)の共同プロジェクト。きっかけは昨年3月にドイツで開かれたG8(主要8カ国)環境大臣会合だ。初めて生物多様性が重要議題になり、「ポツダム・イニシアチブ」が合意され、2010年目標に向けて「10の行動」を定めたが、その1つが「生物多様性の経済的重要性の分析」だった。
今年5月までを第1段階、6月から来年末を第2段階として研究を進めている。「まだ森林の経済的損失しか計算していないが、今後マングローブによる損失などを引き続き算出する」とスクデブ氏は話す。
世界の保護区が生み出す製品や生態系サービスは年間4.4兆~5.2兆ドル(470兆~560兆円)に上るという別の報告もある。生物多様性を経済的価値に換算して保全する試みは、今後加速していくだろう。