総務省は2008年8月28日に東京都内で,2011年以降のBSデジタル放送(次期BSデジタル放送)に関する説明会を開く。7月31日に確定させた「次期BSデジタル放送の委託放送業務の認定に関する基本的方針」の内容を説明し,同放送への参入希望調査を開始する。説明会の開催を2日後に控えた今回は,BSデジタル放送の現状を整理するとともに,その将来像について筆者の考え方をまとめてみた。


 北京オリンピックが全日程を終了した。日本選手の活躍もあって,BSデジタル放送でオリンピック中継を見た世帯は少なくなかったようだ。特にライブ映像が多数放送されたNHKの「BS-1」については筆者の周囲でも,地上波放送の総合テレビと同じ程度の視聴時間になったと話す人が多かった。


BSデジタル放送は準基幹放送なのか

 BS-1はアナログ放送を含めると視聴可能世帯が3000万世帯を軽く超えており,「デジタルケーブルテレビ(CATV)などの普及が予測される2010年度末ごろには,4000万世帯に迫るのではないか」という関係者の予測もある。視聴率が低いと指摘されがちなBSデジタル放送だが,地上波放送以外でこれほど視聴可能世帯が多いメディアは存在しない。これを「準基幹放送」と呼ばないわけにはいかないのではないか。またデジタルCATVシステムにおいては,マストキャリーこそ義務付けられてはいないが,NHKと民放キー局系のBS放送チャンネルは再送信されていることが普通である。

 一方、東経110度CS放送は,有料多チャンネル放送市場を対象とした専門性のより高い番組群の集合体である。総務省の基本的方針では,その東経110度CS放送とBSデジタル放送を「東経110度衛星放送」(仮称)として統合し,両者の普及政策を一体化するという。こうした方針に関して,もう少し議論の余地があるように感じるのは筆者だけだろうか。

 地上波放送といえども今年になって,月次ベースで赤字に転落した事業者が少なくない。こうした状況で衛星放送の広告を集めるには,番組の質をかなり向上させる必要があるのは自明の理だ。最近になって,通販番組(持ち込み広告番組)の放送時間が,BSデジタル放送で非常に多いと指摘されている。しかし通販番組が多いのは,民放キー局系のBSデジタル放送だけではない。昼下がりの時間帯には独立UHF局も軒並み,通販番組を放送している。


番組内容の強化と集中排除原則のさらなる緩和が必要

 こうした事態を受けて総務省の基本的方針でも,次期BSデジタル放送では無料放送よりも有料放送を優先することになった。次期BSデジタル放送に参入する事業者が放送を開始するであろう2011年前後は,メディアサービスの位置付けそのものを問う「情報通信法」の施行も予定されている。しかし,番組(=コンテンツ)そのものを免許交付条件にできるのは,「放送普及基本計画」でうたう「教育」などの番組に限られていたのではなかったか。

 確かに,2007年12月に新しく放送を開始した後発のBSデジタル放送事業者(後発組)のチャンネル(BS11とTwellV)には,親会社やその関連企業が持ち込んだ通販番組の比率が全放送時間の3割を軽く超えるものがある。しかし,これらの事業者に免許を交付したときに総務省は,番組内容そのものを「劣後」とは審査しなかったはずだ。一方で,番組内容が視聴者の支持を得なければ,CATVでデジタル配信されないだろう。後発組の2チャンネルのBSデジタル放送を,CATV最大手のジュピターテレコム(JCOM)が再送信していないという事実もある。

 また,広告モデルで成り立っている無料放送については,公序良俗や法律に反しない限り,行政当局が番組内容に関与することは望ましくない。問題の本質は,後発組のチャンネルも準基幹放送なのに日本民間放送連盟に加盟していないため,放送番組の規律を公正に議論できる放送倫理・番組向上機構(BPO)の審査を受ける義務がないといった運用の実態にある。

 また,メディアサービスがこれほど増えているにもかかわらず,民放キー局がその対抗策(3波の兼営や通信会社への出資,インターネット関係会社と連携したメディアコングロマリット選択の自由,人材交流,番組への資本投下など)を取りにくいことがある。まず,マスメディア集中排除原則の緩和などが議論され,これらの議論を経て実際の認定方針を作成するのが妥当なところではなかろうか。衛星放送をもっともうかるビジネスにしなければ,コンテンツの開発やメディアサービスの高度化は遠いだろう。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
放送アナリスト
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。