◆今回の注目NEWS◆

分権改革と道州制に関する基本的な考え方(関西経済連合会、7月17日)
道州制に関する第3次中間報告(自由民主党、7月29日)

【ニュースの概要】関西経済連合会が「分権改革と道州制に関する基本的な考え方」を、自民党が「道州制に関する第3次中間報告」を発表した。そのほか、道州制に関連するシンポジウムも各地で開催されている。


◆このNEWSのツボ◆

 先月、関西経済連合会が「分権改革と道州制に関する基本的な考え方」を、自民党が「道州制に関する第3次中間報告」を発表した。そのほか、道州制に関連するシンポジウムも各地で開催されており、議論が活発化しているようだ。だが今回は、道州制について若干ひねくれた見方を紹介する……ということになるかもしれない。

 道州制の導入や首都移転問題は、かねてから首都圏への一極集中問題や地域格差の問題が取り上げられるたびに、問題解決のための妙薬であるかのように取り上げられてきている。だが、一向に議論が具体化しないように見える。いや、本当に実現できると思っている人がどのくらいいるのかも疑問である。

 どうも、道州制の議論が議論が「真実味」を帯びてこない大きな理由は、「一極集中」や「地域格差」というのは、本質的に経済問題であるのに対し、道州制の議論は、どちらかと言えば、政治問題、行政問題の議論が先に来ており、このため、道州制の導入が本当に、今の日本の地方が抱える経済問題を解決する「正解」であることに説得力が持てないことではないだろうか?

 一極集中が発生するのは経済効率性からすると、合理的であろう。ヒトやモノが移動するためには「コスト」がかかる。余計なコストを避けたい…という場合は、人でも企業でも「集中しようとする」のは、合理的な行動である。集中の「デメリット(交通渋滞や不動産価格の上昇、環境悪化などの有形無形のコスト上昇)」が過度になれば、市場メカニズムが働いて集中がストップするだろうが、今の東京は、インフラ整備やさまざまな政策の効果もあり、世界的に見ても「結構便利で快適な大都市」であって、集中の不経済効果を感じることは、それほどない。

 となれば、カリフォルニア州(42万平方キロメートル)よりも小さな国土面積しかない日本(38万平方キロメートル)という国で、色々な行政や立法などの機能を分散させることは、少なくとも効率的ではない。また、道州制が実現したとしても、結局は道州都周辺とそれ以外の地方の格差問題が発生するだけではないか?現に、現在の自治体の中でも、都道府県庁所在地とそれ以外の格差問題が発生している。

 結局の所、今の道州制の議論は、

  • 国の財政が破綻する中、地方への「支援」が難しくなりつつある。
  • このため、こうした「支援」を削減する流れが起こっている中で、支援だけを削減することは不公平であり、権限・財源も一緒に地方に動かす必要がある。
  • ところが、現実には、人口、経済力、財政力など、何を取っても首都圏が頭抜けるという状況が変化せず、いまの仕組みのまま地方に財源・権限を委譲されても、運営がままならない自治体の方が圧倒的に多い。
  • このため、経済的な負担能力を、ある程度拡げ、かつ、均等化するため、道州制の導入・推進が叫ばれている…。
といった状況ではないのか?

 しかし、そうだとすると、道洲制の導入が現状改善のための「切り札」になるとも思いにくい。北海道、東北や四国、九州などが、地方での自主財源だけで財政運営ができるとも思いにくいし、そうだとすれば、何か中央を通じた再配分メカニズムが必要だろう。そうなると、結局、「まとまり」が大きくなっただけで、現状と大差ないのではないかとも思われる。それならば、東京という特殊な都会が、「首都である」という外部経済効果を受けて、非常に豊かになっていることは事実なのだから、いっそのこと、米国のように東京を国直轄の「特別区」として、財政を国と共通化し、そのうえで、国と地方の権限分担を考える…といった極端な形も議論に入れたほうが合理的、かつ、現実的ではないかと思われる。

 道州制や、地方分権、首都機能分散(移転)といった問題は、「課題」「目的」「手段」が、整合的な形でなければ、実際に進展するとは思えない。筆者自身は、これらの問題の専門家ではなく、今回、ここで述べてきた見方は、所詮、素人考えかもしれない。しかし、それにしても「最初に道州制ありき」「はじめに首都機能分散ありき」といった、予断を持った議論をしていては、現状の問題を実効性をもって解決することはできないのではないかと思えるのだが、いかがだろうか?

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。