写真1●App Storeの画面。もちろん日本でも利用可能で価格は日本円で表示される。アプリはほとんどが無料だが,有料のものはおおむね数百円で売られている(中には4000~5000円するものもある)。
写真1●App Storeの画面。
もちろん日本でも利用可能で価格は日本円で表示される。アプリはほとんどが無料だが,有料のものはおおむね数百円で売られている(中には4000~5000円するものもある)。
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 ネット・サービス「MobileMe」の相次ぐ不具合やiPhone 3Gのサービス品質問題,iPod nanoの過熱事故など,このところトラブル続きで,ネガティブな話が多いAppleだが,筆者はこれらとは少し違う話に興味を注がれている。AppleがiPhone 3Gの販売開始と同時に立ち上げたアプリケーション販売サイト「App Store」だ。今,これが大変盛況というのだ。

 AppleのSteve Jobs CEOは8月半ばにWall Street Journalのインタビューに答えて,サービス開始後1カ月で6000万本を超えるアプリケーションがダウンロードされたと説明した。1日当たりの平均売り上げは100万ドル,1カ月で約3000万ドルになったという。

 この調子でいけば,年間3億6000万ドルとなり,5億ドルに達するのも時間の問題。具体的な時期は定かでないが,App Storeはそのうち10億ドル市場にまで発展すると同氏は見ているようだ(Wall Street Journalの記事)。

 App Storeとは,iPhone/iPod touch用のアプリケーションの公開/販売の場を提供するマーケットプレースだ。開発者は所定の手続きを経て,自分のアプリケーションをここに公開する。ユーザーはiPhoneやiPod touch,あるいはAppleが無償提供してるパソコン・ソフト「iTunes」で,アプリケーションを閲覧して,気に入ったものをダウンロードする。

 ほとんどのアプリケーションは無料で提供されているが,有料のものは,数ドルから数十ドルといった金額で販売されている。iTunesと同じアカウントで利用するため,ユーザーは音楽同様にクレジットカード決済で容易に購入できる(写真1)。

 その販売価格の70%は開発者に渡り,残りの30%をAppleがとるという仕組みだ。Appleはその収益を,App Storeの運営に充て,SDKのアップデートや,アプリケーションのマーケティング,アプリケーション・ファイルのホスティング,クレジットカード手続き,オンライン決済処理なども一切開発者に代わって行う(関連記事:アップルがiPhone向けアプリ配布サイト「App Store」をオープン,500タイトル以上を用意)。

出足は好調,大手の参入も相次ぐ

写真2●iPod touchのトップ画面。ここにダウンロードしたアプリのアイコンが並ぶ。
写真2●iPod touchのトップ画面。
ここにダウンロードしたアプリのアイコンが並ぶ。
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 このApp Store,各業界からも大きな期待が寄せられているようで,海外メディアを見ているとその興奮が伝わってくる。例えば,米国のコンサルタント会社のマネージャでComputerworld誌のコラムニスト,Seth Weintraub氏はその記事の中で「2008年最大のイノベーション」と表現し,App Storeの可能性を伝えている。Appleは新たな製品を投入し,市場構図を変えてしまうのが得意だが,今年その役を担うのは,新型のハードウエアでもOSでもなく,App Storeだという。

 同氏はその根拠として,サード・パーティ開発者の環境が整備されたことと,ソフトウエア配布の仕組みを挙げている。App Storeの誕生はこれまでのソフトウエア配布方法をぐっと過去のものにしてしまうような出来事。何年か経ってAppleの歴史を振り返ったとき,2008年がエポックメーキングの年だったということになるだろう,と予測している(Computerworldの記事)。

 大手の参入も相次いでいる。Oracle,Salesforce.comといった業務アプリケーション企業,MySpace.com,Facebook,AOLなどのネット・サービス企業,New York Times,Bloombergといったメディア系企業だ。各社はApp Store立ち上げ時点から自社のアプリケーションを公開している(関連記事:Oracle,iPhone用業務アプリの無償提供を「App Store」で開始)。

 アプリケーションの種類も豊富で,SNSから,ゲーム,地域情報,電子書籍,映像,ラジオ,新聞,計算/記録ツールなど多岐に渡っている(写真2)。Weintraub氏によれば,このApp Storeで展開されるビジネスモデルと従来のソフトウエアビジネスのモデルの大きな違いは,こうした大手だけでなく,小規模な開発者にも成功の道が開かれていることにあるという。彼らが大手から何ら支援も得ることなく活躍できる場がここにはあるという。