“Officeレガシー”のデータやプログラムは個人や部門内で日常的に使われているもの。そこには現場の貴重なノウハウが詰まっている。それだけでも個人の生産性向上に役立っているが、全社やグループで共有すればさらなる価値を生む。しかし、非定型な“野良データ”や“野良アプリ”をコントロールするのに手を焼き、横展開できていないのが実情だ。いかにすれば、共有の宝に変えていけるのか。
欲しい情報わからずメンテも不可能
「EUCの推進という意味では成功したが…」。コクヨ・グループのIT部門であるコクヨビジネスサービスWeb化推進グループの土山グループリーダーは苦々しい表情で語る。「3000ものDBが作られた結果、自分の欲しい情報がグループウエアのどこにあるのか、分からなくなっていた」。
コクヨは10年以上、グループウエア「ノーツ/ドミノ」を使い倒してきた。EUCの推進を掲げ、約4000人に上る全社員がノーツDBの開発権限を持っていた。会社の後押しもあってノーツDBは瞬く間に2000個を超えた。用途は「業務アプリケーション」から「掲示板」や「文書管理」など。現場がIT部門に頼らず作ったものがほとんどで、個別の業務に合わせて機能を盛り込み修正してきた。
しかしノーツの導入からおよそ5年が経過した2000年ころには、ノーツDBの多さがかえって情報共有を阻害する場面が出てきた(図7左)。「似たものが多く、エンドユーザーはどれを使えばいいのかわからない状況になってきた」(土山グループリーダー)のだ。
ノーツDBで新規アプリの開発が最も盛んだったのは最初の2~3年。その時に作られたものは作成者が異動したり退職したりで職場を離れるとメンテナンスできなくなった。本人が在籍していても本業が忙しくて機能追加などはできない。といって、他の人には手が出せない。手が出せないアプリケーションの最たるものが、現場がベンダーに開発を依頼したものだ。当初はドキュメントが整備されていても、現場が機能変更・追加したおかげでスパゲティ状態になった。もともと外部委託するほど大規模だったので、誰も内容を把握できなくなってしまった。
全社向け以外は制限付きEUCで
こうした状況を打破すべくコクヨはノーツの全廃を決めた。ただし、すべてのデータを捨てるのではない。活用が進まなかったとはいえ、10年間のノウハウが詰まっているからである。
土山グループリーダーらは2年間かけてノーツDBを棚卸しした。ユーザーに直接交渉するなどで大胆に廃止し、3000あったDBを800個まで絞り込んだ。残ったものの中には、「それまで部門内でしか使っていなかったけど、当社の社風や働き方に合った素晴らしいDBもあった」(東京ITサポートグループの白須恵子氏)。例えば、部門の目標設定と管理、情報発信アプリなどである。
これらは、顧客の与信や社内決済といった全社員が使う「大物」と、現場のユーザーが使う「中小物」に分類。大物はJavaで再構築してIT部門の管理下に置く。中小物はドリームアーツのグループウエア上に移植した。この製品もDBの構築やアプリの開発が可能なもの。ただしノーツでの反省から開発機能に制限を加えている。
つまり、これからもEUCは進める。EUCが悪かったのではなく、コントロールが効いていなかったのが悪かったからだ。今後、全社レベルの仕組みは EUCには入れない。一方で、制限は加えるものの現場が使えるEUCツールを残す。まず、開発権限を持つには講習を受ける必要がある。その上で、テンプレートとなるDBを使ってもらうことにした。各部門が共通で使えるようなDBは「ディスカッション」「申請」「報告/連絡/相談」などをカテゴリ別に公開しており、検索できる。
ノーツのころにはないプッシュ型の情報発信も行う。ユーザーが自分で探すのではなく、ポータルサイトにログインすると、その人が見るべき情報を上位に表示させたり、強制的にポップアップ画面を出すようにした。