国債取引において課税と非課税を逆に処理──。ゆうちょ銀行が今年1月に犯してしまったミスだ。幸い、取引自体は正しい金額で処理していた。しかし顧客に送った取引残高報告書に記載する利子を、逆の処理をしたものとして印字してしまったのだ。
原因は、Excelファイルの関数を間違えたこと。取引自体は基幹系システムで実行している。しかし報告書の作成は、基幹系からデータを引き出し Excelを使って行っていた。そのExcelでミスがあった。問題が根深いのは、実はそのミスは事前に確認されていたことだ。ゆうちょ銀が発見し、委託ベンダーに指摘して修正させていた。しかし、実作業の際に古いExcelファイルを使ってしまいトラブルにつながった(図1)。
膨張し続け限界に
図1の例は業務を委託したベンダーで起きたトラブルだ。しかし、どの企業でも起こり得る。多くのビジネスマンはExcelを中心に表計算ソフトを日常業務で活用しているからだ。まさに本誌2007年7月9日号の特集で指摘した“Excelレガシー”である。
業務部門の担当者がExcelを使って自ら開発し、利用し続けてきた「業務ツール」。業務が非定型であったり対象ユーザーが少なかったりして、IT部門が構築するような「システム」にはなり得ない。それでも現場は自分たちの業務を少しでも効率化しようと、身近にあるExcelを活用した。
しかし状況が変わりつつある(図2上)。現場での活用が進み、一つのミスが業務に大きな影響を与えるようになった。なのに個人のローカルディスクにも部門サーバー内にもファイルのコピーがまん延して最新版がわからなくなっている。Excelのマクロで作った業務ツールは改良を重ねた結果、メンテナンスができなくなった。
作成者が異動や退職などでいなくなると、事態はより悪化する。業務に不可欠なツールとなっているのに誰も手を出せない。ある製造業では、「Excelマクロで結果を出した後に電卓で検算したり、誤差を考慮に入れてさらに別のExcelで処理したりといったケースもある」(IT担当者)。マイクロソフトも、「扱うデータ量が個人でハンドリングできる限界を超えているケースもある」(インフォメーションワーカービジネス本部の米野宏明エグゼクティブプロダクトマネージャ)とみる。