「忙しいんです。とにかく忙しい。やらなければならないことが山ほどある」

 そこまでは,よく聞く発言だなと思った。「いやあ,私もそうですよ,忙しくて」と相づちを打とうかと思ったら,彼は思ってもみなかったことを続けて言った。

 「でもね。システム開発のトレンドや最新技術を知ることができるイベントがあれば,プライベートの時間を削ってでも行くようにしているんです」――。

自分を知るために参加する

 “彼”とは,取材先のITエンジニアである。上の発言は,彼がプロジェクト・マネージャーとして複数のプロジェクトを抱え,多忙を極めていた数年前の会話の中で出たものだ。当時,彼はただでさえ忙しいのに,筆者の無理な願いを聞いて寄稿記事まで書いてくれていた。その彼が「どんなに忙しくてもイベントには出かける」と言ったのだ。

 そのころ,イベントに参加しても大して得るものがないと考えていた筆者は,がぜん興味を持った。なぜ,イベントに参加するのかと質問すると,「刺激を得るため」と言う。それは単に忙しい仕事をサボりたいだけでは,とまぜっかえすと,彼は「気分転換になるので,そういうところもあるけれど…」と笑ってからこう言った。

 「イベントに参加すると,自分がどれほど無知なのか確かめられるんです」

 なるほど,と思ったことを今でも覚えている。確かに技術系のカンファレンスに参加すると,知らないテーマのセッションでは驚きと発見がある。自分のスキルのレベル感を知ることができるのだ。

 「新しいことに挑戦したがらない性格なんですよ。つい,得意な技術,知っている技術に頼ってしまう。でもそれだと,今はいいけれど先が見えてしまうでしょ。だからイベントに出かけて,講演を聴いて,自分を刺激するんです」

 ただ参加するだけで,刺激になるんでしょうか。そう質問した筆者に,彼はこう答えた。

 「コツがあるんです。講演中に質疑応答の時間があれば質問する。それが無理なら,講演後,すぐに講師のところに行って名刺交換する。展示ブースがあるなら質問しまくる。せっかく参加しているんだから,自分から積極的に動くんです。最初は勇気が要りますが,何とかなるものですよ。たいていの場合,講師も気楽に話してくれますから」

 確かにそのとおり。筆者たち記者も,講演後に講師にかけよって名刺交換することは多い。ちょっとした勇気を出すか出さないかで,イベントに「ただ参加するだけ」なのか「活用するのか」大きく変わってくるのだ。さすが優秀なITエンジニアは言うことが違うなと思ったが,本当にそれだけなのか,突っ込んで質問してみた。すると彼はこう答えた。

 「忙しいときこそ,余裕を持てるようにしたいじゃないですか。だから,それができるかどうか自分を試しているんです。イベントに参加できる時間を作れれば勝ち。作れなければ負け。勝ちが多ければ時間管理ができるっていう自信につながるでしょ」

 残念ながら,彼とはここ数年会っていない。今でも,時間を作ってイベントに参加して自分を試しているのか,それは分からない。しかし,彼の言葉はそれまでの筆者のイベント観を変えた。

ライブは参加しなくては意味がない

 その後,筆者自身がイベントを企画する立場になり,昨年からシステム開発をテーマにした「XDev(クロスデブ)」というイベントを企画するようになった。そのとき最初に考えたのが「彼のような忙しいITエンジニアが,来て良かったと思えるものにしたい」ということだった。

 2007年9月の「XDev2007」,2008年1月の「XDev in ITpro EXPO」,いずれもITエンジニアの満足度を重視してプログラムを作ってきた。来場者アンケートを見る限り「参加して良かった」と思ってくれる方が多いことにホッとしている。

 そして来月の9月4日~5日,目黒雅叙園で「XDev2008(クロスデブ2008)」を開催する。

 「忙しいからこそ参加してほしい」とは主催側としては言いにくい。しかし,参加しなければ得られないことは確かにある。もし彼の言葉にちょっとでも感じることがあれば,ぜひXDev2008に来てみてほしい。そして,自分自身のスキルを試す絶好の機会ととらえ,自分を刺激してみてはいかがだろうか。

 そういえば彼はこうも言っていた。

 「イベントが終わってからニュース記事やブログを読むよりも,会場で直接,講師の話を聞いた方が何倍もいい体験になります。結局,記録より記憶なんです。イベントってライブでしょ。やっぱりライブは参加しなくちゃ意味ないですよね」