オーエムシーカードとセントラル ファイナンスは、クレジットカード分野で競合するにもかかわらず、相互の基幹系システムを災害時のバックアップとして利用するシステムを構築した。カード業界では初めての取り組みだ。2008年2月に合併を発表することになる両社だが、当初は“赤の他人”にすぎなかった。組織の壁を乗り越えた試みは、11億円という驚異的な低コストの災害対策をもたらした。

 「“いとこ同士”にはなりましたが、“兄弟”を飛び越えて合併することになるとは、驚きましたね」。東京・品川駅そばにあるオーエムシーカードのオフィス。情報システム部の有田正彦次長は、来社したセントラル ファイナンス システム開発部の山﨑圭一係長にこう声をかけた。

 「私も昨日知ってびっくりしましたよ」。山﨑係長にとっても、2008年2月29日に明らかになったオーエムシーカードとセントラル ファイナンス、それにクオークも含めた3社合併のニュースは、晴天のへきれきだった。09年4月1日をメドに合併する予定。情報システムも一本化を進めることになる。

 この日、有田次長と山﨑係長が顔を合わせたのは、両社が共同で進めている、災害対策システムに関する打ち合わせのため。プロジェクトを開始した07年1月は、両社はクレジットカード事業で競合するライバル同士。いわば、“赤の他人”であった。

 その後、07年4月にセントラル ファイナンスが、同年7月にオーエムシーカードが相次いで三井住友フィナンシャルグループと提携関係を結んだ。いわば、“いとこ同士”になったわけだ。しかし合併にまで至るとは、有田次長にも山﨑係長にも、予想すらできなかった。

 折しも合併発表時には、相互バックアップ・システムの構築プロジェクトが大詰めを迎えていた(図1)。2社が個別に構築すると100億円は下らないバックアップ・システムを、わずか11億円で実現するメドがついていた。災害対策が進んでいないカード業界では、異例中の異例と言ってよいプロジェクトだ。

図1●オーエムシーカードとセントラル ファイナンスは、どちらも同型のメインフレームを使っていることから、相互のシステムを災害時にバックアップする仕組みを構築した
図1●オーエムシーカードとセントラル ファイナンスは、どちらも同型のメインフレームを使っていることから、相互のシステムを災害時にバックアップする仕組みを構築した
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コスト効果が懸念吹き飛ばす

 プロジェクトの検討がスタートしたのは06年末。当時セントラル ファイナンスは、情報システムの災害対策を取引先企業から強く求められていた。同社は自前のブランド・カードよりも、コスモ石油やJR東海、松坂屋といった提携企業のクレジットカードを発行するビジネスの比率のほうが高い。個人情報保護や、情報システムに関する災害対策に取り組む企業が増えるなか、セントラル ファイナンスへの要望が強まっていた。「提携の条件に、災害対策を講じていることを挙げる企業が増えていた」と若旅義朗システム開発部長は振り返る。

 若旅部長は、情報システムの構築・運用を委託しているユーフィットに、バックアップ・システムを構築した場合の試算を行うよう依頼。その回答に驚がくすることになる。「70億円もするのか。当社の企業規模ではとてもそんな投資はできない」。とはいえ、災害対策は急務だった。

 そこで目を付けたのが、日本IBMの勉強会などで交流があったオーエムシーカードだった。06年に、基幹系システムをセントラル ファイナンスと同じ日本IBMのメインフレーム同型機に移行したばかり。しかもオーエムシーカードのデータセンターは、大阪府茨木市、セントラル ファイナンスのセンターは愛知県名古屋市にある。100km以上離れているため、一度に両方のセンターが被災する可能性は低い。