積水化学工業は2008年1月、メインフレームを撤廃した。1999年から進めてきたオープン化で取り残されたシステムを2年弱かけて移行した結果だ。対象は、仕様書などのドキュメントがなくブラックボックス化しながらも、通常業務の核となっていたもの。移行リスクの高さから手を付けなかったが、“再構築しないリスク”が高まったと判断した。帳票削減に関して現場を説得し、構築コストを抑えた。

 アセンブラで実装した通信機能はプロトコル仕様のドキュメントが存在せず、詳細が分からない。たび重なる機能追加・変更で70万行のプログラムがスパゲティ状態。40年前のコードが残っていてブラックボックス化――。

 これらが、基幹システムのうち「通信機能」「販売や会計の一部」「マスター管理」が最後までメインフレームに残ってしまった理由である(図1)。もちろん、コストと時間をかければオープン化は可能だ。しかし、直近では大きな機能変更が必要ないため、コストに見合う効果が得にくい。また、特に販売管理や生産・物流システムとの連携を司る通信機能では、不具合が生じたときの業務への影響が計り知れない。安定稼働しているものを移行するリスクは大きかった。

図1●最後まで残ったホスト・システムをオープン化
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 状況が変わったのが、2005年に発生した障害である。通信機能が半日止まり、発注データなどがやり取りできなくなった。手探り状態で何とか事態を収拾できたが、「1日止まっていたら顧客にまで迷惑をかけるところだった」(寺嶋一郎コーポレート情報システムグループ長)。メインフレームの保守切れも迫ってきた。単に上位機種に更新するだけで4億円以上のコストがかかる。そこで06年4月、メインフレームの撤廃を決めた。

 UNIXへの移行に関してシステム子会社であるNTTデータセキスイシステムズが出した見積もりは11億円だった。もう“塩漬け”が許されない状況とはいえ、ここまでのコストはかけられない。移行コスト削減のために積水化学が採った施策は、「帳票の全廃」と「機能改善の禁止」である(図2)。

図2●投資コストを半分以下に
図2●投資コストを半分以下に
法定帳票など以外を全廃し、機能改善を凍結した

 既存システムで出していた帳票は497種類で年間の発行枚数は360万枚に上る。この移行に3億円かかるため、帳票をなくせば3億円浮く。せっかくオープン化するなら機能を改善したいところだが、「今回は移行が最大の目的。現行システムをそのまま移行することに決めた」(寺嶋グループ長)。この部分の見積もりも3億円なので、全体のコストは5億円まで落とせる。

 方針を立てることは簡単だが、実現は難しい。帳票の全廃は現場の抵抗に遭うことは目に見えていたし、機能改善をしないといっても、ブラックボックス化したシステムの移行は楽ではない。こうした課題に対し、人材育成も考えて完全な内製で乗り切った。