田辺三菱製薬は2007年10月1日の合併を機に、旧田辺製薬と旧三菱ウェルファーマの基幹システムを統合した。合併の基本合意から、8カ月後の本番稼働という“超”短納期の統合だった。成功の要因は、スケジュール順守の目標を掲げ、基幹系、営業系など4つの主要システムのすべてを、旧会社のいずれかのシステムに片寄せしたこと。そのシステム評価と、事業部門に対する説得に注力した。

 「新システムになると、そんなこともできなくなるのか。この前も我慢してくれと言われたが、まだ我慢しなければいけないのか?」。事業部からは容赦ない言葉を浴びせられる。「すみません。すべてを今まで通りにしようとすれば、10月1日にシステムが稼働できなくなるんです」。田辺製薬(当時、現在は田辺三菱製薬)の木之下敦彦情報システム部長はプロジェクトが始まってからというもの、事業部に頭を下げてばかりだった。「システム統合が間に合わなければ顧客に迷惑がかかる。それを避けるためには自分が“謝り役”を買って出るしかない」。そう自分に言い聞かせながら、事業部を後にした――。

異例の「8カ月システム統合」

 2007年10月1日、田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併して田辺三菱製薬が誕生した。合併と同時に独SAPのERP(統合基幹業務システム)パッケージ「R/3」を利用した基幹系や営業系システムなど新会社で利用するシステムも本稼働を開始した(図1)。

図1●田辺三菱製薬は基本合意から合併までの8カ月間でシステム統合を終えた
図1●田辺三菱製薬は基本合意から合併までの8カ月間でシステム統合を終えた
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 新会社のシステムは、もともと旧2社のいずれかで利用していたもの。合併を機に、片寄せして統合した(図2)。例えば、基幹系であれば三菱ウェルファーマのシステムを、「実消化システム」と呼ぶ営業系システムは田辺製薬のシステムをそれぞれ採用した。

図2●合併前後のシステム構成。基幹系は旧三菱ウェルファーマに統一した
図2●合併前後のシステム構成。基幹系は旧三菱ウェルファーマに統一した
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 プロジェクトは容易ではなかった。最大の問題はスケジュールだった。合併の基本合意を締結したのが07年2月2日。本稼働まで実に8カ月間しか猶予がなかった。「医薬品卸業者からも、ギネスブックものだと言われた」と木之下情報システム部長は振り返る。

 事実、片寄せとはいえ、売上高2000億円規模の企業同士のシステム統合をわずか8カ月で実施するのは驚異的なペースだ。05年10月に合併して誕生した大日本住友製薬がR/3に統合したプロジェクトも短期間だったが、それでも10カ月間をかけている。

 スピード統合のポイントは、プロジェクト期間中の判断基準をすべて「10月1日の本稼働に間に合うか、間に合わないか」に集約させたこと。どちらのシステムに寄せるかを決める場合でも、機能の優劣よりも「間に合うかどうか」を優先させた。

 システム統合により機能が落ちる事業部門に対しては、システム部門が説得に当たった。納得してもらうために、特別に時間を割いた。このほか、手戻りを発生させないために、独自のプロジェクトマネジメントの方法を考案したことも寄与した。

 こうして10月1日にシステムは稼働。システム統合費用は約30億円。「稼働直後に付き物の細かなトラブルはあったものの、顧客に迷惑をかけることはなかった」(木之下部長)。