先週,初めて高速道路でETCを利用した。「ドキドキ」,いや「ヒヤヒヤ」した。「開閉バーが開かなかったら」と不安があったからである。ETCは,高速道路などの利便性向上や料金所の渋滞緩和を目的として,国土交通省主導で導入した自動料金支払いシステム。ETCナシでは,高速道路の料金所のゲート通過が怖くなってきたため,利用し始めたのだが。ETCは恐怖の通信システムというのを実感した。

本来のメリットは感じなかったが

 ETCは,この春,自動車の買い換えのときに購入,設置した。筆者は,ETCを使う機会が年間数回のウィークエンド・ドライバーである。「料金の割引がある」「料金所をスムーズに通れる」と言われても魅力は少なく,ETC自体の必要性は感じていなかった。しかし,進んでETCの導入を決めた。

 必要でないのになぜ導入したかというと,ETCナシではゲート周辺が怖くなってきたからだ。この“怖い”は冒頭の「バーが開かなかったら」という不安とは違う。ETC搭載車はスピードを落とさずにゲートを通過していく(一応,時速20km以下で通過することになっているが)。一方,従来のゲートでは,入り口でも出口でもいったん停止する。ゲートで,時速60km vs 0kmの勝負(?)となる。

 ETCが普及するに従い搭載車が作る流れが本流となり,そこに合流していくのは難しく危険になってきた。たいていの場合,入り口,出口ともゲートを抜けるとすぐに,道が左右に分かれていることも危険性を増やす。

 国交省の施策もあり,ETCは順調に普及している。自動車(四輪車のみ)保有台数は,2008年5月末で約7500万台。ETC車載器のセットアップ件数は2008年5月末で約2300万台である。料金所を通る自動車,つまり,利用率からみると全国平均で70%を超えている。首都高にいたっては,昨年11月に利用率が80%を超えたと発表している。ほとんどがETC搭載車となっている。

 料金所を通るたびに身の危険を感じていたため,自動車の買い換えを機にETCを導入した。

リスクが大きいがトライは実質1回

 ETC搭載車では,新たな不安が出てくる。ゲートにある開閉バーがきちんと開くのかという不安である。ETCのゲートを時速20km以下で走行する自動車はほとんどない。ほとんど減速しないで時速80kmくらいは出ていそうな車さえある。

 開閉バーが開かないからといって急ブレーキを踏んだら,追突される恐れがある。実際に,この種の事故は多く発生している。後続車が大型車ならば,生死にかかわる。以前からある程度予想していたことではあるが,実際の不安は予想を超えるものであった。

 ETCは,無線通信を使った認証システムといえる。ゲートは車載器との間で無線通信をして,ETC車載器が正しいか,それに挿入されているETCカードが正しいかをチェックして,開閉バーを制御する。ここで何らかのエラーが発生すると,バーは開かない。

 エラーが発生する要因はいくつかある。一つ目はETC車載器が正しくセットアップされているかである。ETC車載器には,あらかじめそれを設置する車両のナンバープレート情報などを入力する必要がある。通常,販売店がこのセットアップ作業を実施する。ここでの処理に間違いがある可能性がある。

 次に,ETCカードがきちんと挿入されているか。ETCカードを車載器に挿入すると,音声やランプの点灯によってカードが装着されたことを教えてくれる。

 それから,車載器,ゲートのそれぞれが正常に動作するかという問題もある。車載器とゲート間で通信エラーが発生するかもしれない。

 このようなエラーは,世の中の通信システムや認証システムでも当然発生する。システムによって発生確率が違うが。人為的なミスや装置の故障など,原因はさまざまである。エラー発生時は,再度試してみるのが普通である。そして,それでうまくいくことも多い。

 しかし,ETCの場合はそうはいかない。システム的にはリトライなどの対処法を用意しているが,その前に追突される危険性がある。つまり,ETCは「エラーが発生したら,生死にかかわる問題が生じる可能性がある無線通信システム」なのである。そのような重要な役割を担うにしては,ETC車載器の見た目は頼りない。「いつか故障するのだろうな」とも考える。

 とはいえ,ETCを利用しないのも怖い。できることは,ゲートに進入する際,バックミラーで後続車の様子を伺いつつ,なるべく減速することである。