妻が、バスタオルが欲しいので探せという。そういうの得意でしょ、と。今使っているものがどれも随分くたびれてきたので、一気に入れ替えたいらしい。

 「どんなやつ?」と聞くと「あんなやつ」という。それは、内野という会社で作っている白い無地の、何の変哲もないタオル。けれど、海島綿という超高級素材を使っていて、何しろやわらかくて、吸水性も良くて、申し分ない。ただ、新品を百貨店などで買うと腰を抜かすほど高い。それで、お歳暮、結婚祝いなどの贈答品が大量に出回る近所のリサイクル・ショップなどを覗き、見つけると必ず買って帰ることにしていたのだ。けれど、最近はちっとも入荷しない。店の方に聞くと「そういえば入らないねぇ。前はちょこちょこ入っていたのに」という。以前は「あまり偉そうでない普通のタオル」とか思われていたのが、何かの拍子に「抜群にいいタオル」であることが露呈してしまったんだろうか。

 ともあれ、「あんなやつ」とかでは探せないので、具体的に希望を聞いてみた。それをまとめると、おおよそ次のような条件になるようだ。

  1. もちろん、ふわふわ肌触りがいいのが理想。けど、素材にすごくこだわるわけではなく、もちろん海島綿である必要はない。高いし。
  2. 無地のもの。白でなくてもいいが、落ち着いた色のもの。ヘンな柄ものとか、無地でも奇抜な色はイヤ。
  3. 刺繍のあるものはチクチクするのでイヤ。高級ブランドのロゴとかがバーンと入っているのも俗っぽくてイヤ。
  4. 継続利用が前提なので、あまり高価なものは不可。いつでも手軽に入手できることが望ましい。数が多くなるとけっこうカサ張って重くなるので、小売店でしか入手できないものは避けたい。できればネットで注文し、宅配してもらえること。

ないんだな、これが

 それを条件に、早速インターネットを使って検索、比較検討を開始した。まずはネットオークションで当たりをみようと思ったのだが、すごい点数がある。しかも、ほとんどが上記の2や3の条件に反するものばかりなのだ。

 まず、やたらブランドを冠したものが目立つ。バーバリーといった、服飾ブランドを使っているものはまあわかる。ところが、フォーション(フランスの食料品ブランド)とかウェッジウッド(イギリスのテーブルウエアのブランド)とか、なぜタオルなのだろうかと考え込んでしまうようなものまで存在するのである。いや、これほどタオル業界がブランドまみれになっているとは知らなかった。

 こういったものには当然のごとくブランド名が誇らしげに刺繍やプリントで描かれており、ブランドにちなんだストライプや花柄といった柄が描かれている。いわゆるブランドもの以外のものをみても、やはり柄物が大多数で、無地のものはほとんどないという厳しい現実を思い知らされた。

 絶望しながらもやっと見つけたのは、米WestPoint Home社製の、MARTEXというブランドのバスタオルである。インターネットから得た情報によれば、高級ホテルのタオルとかを手掛けている米国では有名なタオル・ブランドであるらしい。無地で、ロゴとかもない。刺繍もない。上記の2と3の条件はクリアである。ネットショップやネットオークションで複数の方が扱っておられるようで、しかも決して高くない。4の条件もクリアできる。

次期スタンダード

 ということで、早速試しに買ってみることにした。いろいろ品種があるのだが、選んだのは、カルフォルニア綿92%、ポリエステル8%のホテル向け白無地のものと、エジプト綿100%使用のベージュ地のものの2種類である。単価は、前者が日本のバスタオルと同じくらいの大きさで600円弱、後者はやや大きめで1000円強だ。

 早速取り寄せてまず洗濯、それから実際に使用してみた。前者はちょっと拭いたときにギスギスした感じがするようだが、後者はかなり心地よい。まだ耐久性とかの試験項目は残っているが、どうも我が家の次期スタンダードになりそうな気配なのである。

 それにしても、と思う。半導体や自動車で騒がれる以前に、日本は繊維産業で世界を席巻した国である。ただ工業的に成功しただけではない。日本は、桃山、江戸時代以降、世界に誇れる高度で優美な織物や染物を綿々と生み出してきた国なのである。あのルイ・ヴィトンのモノグラム・シリーズに使われているパターンだって、元はといえば江戸小紋の模様だし。

 その、誇るべき歴史の末端に連なっているはずの自分が、よもや米国メーカーのタオルを買うことになろうとは。しかも、価格で中国製品に負けたわけでも、高級感でイタリア製品に見劣りしたわけでもない。理由は、欲しいと思うものが、星の数ほどある日本製品の中に見当たらなかっただけなのである。

集中の妙

 同じような経験をしたことがある。10年ほど前、妻が「物心ついたころからそこに建っていた」と証言する老朽マンションの1室を購入したのだが、何しろその内装がスゴかったので大改造することにした。妻も一家言をもち、私も凝る方だからえらいことになったのだが、私が我を通して、洋室はすべて、ウィリアム・モリスという前世紀末に活躍した英国人デザイナーの手になる壁紙を採用することにした。その調達も何とかなり、あとはカーテンである。何しろ派手な柄の壁紙なので、カーテンは無地にしたい。色は周囲との調和を考えて濃緑色がよかろう。そこまで決めて、担当の建築士と妻と私で、東京・新宿にある「OZONE」というところに出向いた。

 そこには、あらゆる種類のインテリアに関する資料やカタログがそろっていて、カーテンだけでも何十冊という、漬物石になりそうなほど重くてデカい国内メーカー/販売店のカタログが自由に閲覧できる。それを端から三人がかりで調べ、濃緑色の無地のカーテンを探した。ところが、なかなか見つからない。

 「いかにもよくあるよな」という感じのベージュ系のカーテンは、色合いや柄を微妙に違えたものまで、各社とも何十、何百種類も完備していている。けれど、目指すものは「近い」というものも含めて、結局一つも見つけられなかった。あきらめて欧州製品を扱うインテリア・ショップに行くと、ちゃんとあるではないか。何万もの国内製品を掻き分けて探しでも、1点もなかったのに。