グリーンITの取り組みとして,ベンダーは省電力型サーバーやファシリティ設計支援などを提供し始めているが,ユーザーの課題はそれだけでは解決しない。重要なことは,ITインフラの再構築のなかで省電力化をいかに推進するかというソリューションだ。

省電力型サーバーだけでは解決しない

 国産ベンダーは、こういった製品やサービスを利用してITのグリーン化を推進することを、ユーザーに促す。

 しかし、その取り組みをすべてのユーザーが好意的に受け止めているわけではない。ベンダーが推すこうした省電力型製品は新技術を搭載している分、従来製品より割高なケースが多い。関西に本拠を置くエネルギー会社のシステム担当役員は、「グリーンITはベンダ ーの単なる売り文句ではないのか」と、つれない。

 ユーザー企業にとって、グリーンITはITインフラをどう最適化するかという大きなテーマに包含される。ブレードサーバーや仮想化技術、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などの新技術を想定し、ITコストや運用効率を勘案しながら今後のITインフラ像を模索している。単に省エネ型サーバー製品だけ導入しても、ITインフラにかかわる課題は解決しない。グリーンITは課題の1つでしかないのだ。高価な省電力サーバーだけを単品で提案されても魅力に乏しい。

 IT部門にとっての“プリウス”とは、ITインフラの再構築のなかで省電力化をどう推進していくかというトータルなソリューションである。「国産ベンダーのグリーンITは、ハード部門やサービス部門などが個別に製品やサービスを開発し、ユーザーにアプローチしている。グリーンITをどのようにユーザーに提供するかという戦略が不在だ」とガートナー ジャパンの亦賀忠明バイス プレジデントは苦言を呈す。

 もちろん省電力型サーバーは、サーバーの消費電力の大きさに苦慮する一部のIT部門やデータセンター事業者には受け入れられるだろう。しかし、長期的なビジョンで次のITインフラを模索する企業には大きくは響かない。

外資はITインフラ全体を提案

 その点で戦略が明確なのは、外資ベンダーだ。「ユーザーのITインフラをいかに変えるか」を明示する(図4)。

図4●国産ベンダーと外資ベンダーでは、グリーン化に向けた立ち位置
図4●国産ベンダーと外資ベンダーでは、グリーン化に向けた立ち位置
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 例えば日本IBMは他社に先駆けて2007年2月にグリーンIT施策「Project Big Green」を発表した。取り組みが早い分、戦略も他社の一歩先を行き、国産ベンダー以上に充実している。すでにメインフレームからPCサーバーまでIT 機器の消費電力を一元管理するソフトやラック型空調機などを提供しており、6月11日にはサーバーを収容するコンテナ型設備も発表した。もちろん、IT機器の省電力化も進めている。さらに空調機や建物の省電力化も含めた企業ITインフラの次世代像として、「New Enterprise Data Center(NEDC)」を提唱している。

 日本ヒューレット・パッカード(HP)もターゲットはITインフラ全体だ。「Adaptive Infrastructure」という柔軟性が高いITインフラを構築するというコンセプトをベースに、製品やサービスを提供する戦略だ。IBM同様、 IT機器の省電力化を進める一方で、ラック型空調機も提供。サーバー室の建築構造から見直すニーズに応えるため、08年2月に米本社が米EYPミッション・クリティカル・ファシリティーズを買収。日本にノウハウを持ち込む。

 「外資ベンダーはITインフラに関する上位コンセプトが明快で、それに基づいて製品やサービスを提供する。ユーザーにもわかりやすい」と、ガートナージャパンの亦賀氏は指摘する。米IBM グローバル・テクノロジー・サービスのスティーブン・サムスバイス・プレジデントは、「IBMは日本のグリーンITベンダーとして最も高い評価を受けている」と自信を見せる。

 これに対して国産ベンダーは、個々の製品やサービスでIBMやHPを追い上げている段階。ユーザー企業に対するトータルなソリューションはまだこれからだ。自動車メーカーとは異なり米国勢の後じんを廃している状態だ。

他人事ではない日本のIT部門

 IT版のプリウスを出せない国産ベンダーの状況を、日本のユーザー企業も笑う立場にはない。日本企業のIT部門は環境対策推進への意識がまだまだ低い。日経マーケットアクセスが08年5月にシステム担当者を対象に実施した調査では、全社でシステムの省エネに取り組んでいるとの回答は全体の4分の1に過ぎなかった(図5)。部門として取り組んでいるという回答を含めても、約40%と半分にも満たない。経営環境は大きく変化しているのに、それに対応できない IT部門が少なくないことを示している。

図5●情報システムによるCO2排出量削減に取り組む企業はまだ一部である
図5●情報システムによるCO2排出量削減に取り組む企業はまだ一部である
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 それでも一部の先進ユーザーは本腰を入れ始めている。エコカーでトヨタを追うホンダは2008年4月に、3年間かけてサーバー台数を半減させるプロジェクトを開始した。仮想化技術を使って、約1000台を順次統合する。IT部 IT戦略管理室の野口貴史室長はその狙いを、「既存システムのムダをなくすこと。それがCO2削減につながる」と話す。もちろん億単位のコストがかかるものの、「環境対策としての効果を経営陣に訴えた」(野口室長)。IT部門が社内の環境対策を牽引する好例だ。

 「業務のムダをなくすにはITの利用が不可欠。企業のCO2排出量削減を進める上でIT部門が果たすべき役割は大きい」と、アクセンチュアシステムインテグレーション&テクノロジー本部の森泰成パートナーは強調する。システムそのものの省エネ化はもちろん、ITの活用によって業務プロセスを効率化し、もっと大きなCO2排出量削減効果を発揮することも可能なのだ。

 日本のITが「環境の劣等生」にならないためにも、国産ベンダーとユーザ ーのIT部門は取り組みを加速する時期に来ている。