東邦薬品のCIOに相当する森久保光男・常務取締役開発本部長兼SPD室長
東邦薬品のCIOに相当する森久保光男・常務取締役開発本部長兼SPD室長

 医薬品卸大手の東邦薬品にとって至上命題といえるのが、物流センターからの「誤出庫」をゼロにできる体制を整えることである。医薬品は患者が誤って違う種類の商品を口にしてしまうと、最悪の場合は死に至る恐れがある。そのため、医薬品卸には常に誤出庫が無い100%の出荷精度が求められる。だが、100%の達成は容易なことではない。

 CIO(最高情報責任者)に相当する森久保光男・常務取締役開発本部長兼SPD(物品管理)室長は、「CIOの役割は経営者が掲げる夢をIT(情報技術)で実現することだ」と語る。その夢の1つが誤出庫ゼロであり、医薬品卸としての社会的な使命でもある。

 1997年2月に情報システム部長に就任して以来、10年以上にわたって、病院や調剤薬局からくる医薬品の注文を受けて正しく商品を出荷するための一連の情報システムと物流を取り仕切る要職を歴任してきた。同氏にとっても、誤出庫ゼロは究極の目標である。

 夢の実現に一歩近づいたのが、2006年末に新設した物流センター「TBC東京」の稼働だ。ここでは現在、99.9997%という高い出荷精度を達成している。それを支えるのがTBC東京の特徴でもある800個の「光る無線ICタグ」である。東邦薬品が東京大学の坂村健教授が代表を務めるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所(東京・品川)と共同開発したものだ。

 森久保常務取締役は夢の実現のためには最新のIT活用にも果敢に取り組み、究極のSCM(サプライチェーン・マネジメント)の完成を目指している。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・経営トップが描いている夢を実現することです。技術的なプロセスよりも、結果として業務がどうなるかを伝えなくてはなりません。ロジックを踏み越えないと新しいものは生まれないと思いますが、これが難しい

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・提案書をまとめる技術は進歩していますが、内容が追いついていません。どれもきれいですが、一般的な内容に終始している。まずは提案先の実際の業務を具体的にイメージしてもらいたい。もし現状にとらわれずに新しい発想を提案するのなら、そこには本当に新鮮なアイデアが隠されていなくてはなりません

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日経MJ
・日経産業新聞

◆お勧めの本
・仕事絡みで面白かったのは、イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット氏が書いた『ザ・ゴール』(ダイヤモンド社)のシリーズでしょうか。生産管理やSCM(サプライチェーン・マネジメント)関係の仕事をしている人だけではなく、実務で問題追求する人にもお勧めです

・最近ではトム・ジーグフリード氏がゲーム理論を解説した『もっとも美しい数学 ゲーム理論』(文藝春秋)を興味深く読んでいます

◆ストレス解消法
・ストレスを解消するには、一時でも完全に仕事を忘れることです。私の場合は映画館で映画を観るのが一番

・もう1つの方法は、仕事を趣味に変えること。現在システム関係の仕事で中国と交流していますが、中国に関係する歴史や文学などを100冊以上読破しました。最近は漢字の起源から語学まで手をつけるに至っています

■変更履歴
タイトル及び本文中、森久保光男 取締役開発本部長 兼 SPD(物品管理)室長と記載していましたが、森久保光男 常務取締役開発本部長 兼 SPD(物品管理)室長です。お詫びして訂正します。タイトル及び本文は修正済みです。 [2008/08/25 13:00]