Q 私の直属の上司は,自分の意見だけが正しいと思い込み,一切他人の意見を受け付けません。しかも嫉妬心が強く相手を恨んだり不当に利用したりといった具合で,部下もあきれはてています。職場の雰囲気も最悪です。ストレスがたまり,会社を辞めたい気持ちが強くなっています。 (30歳,男,SE)

 性格的に偏りのある困った上司がいれば,部下たちはさぞ苦労することでしょう。質問の内容からすると,この上司は自己愛が極めて強い傾向があると考えられます。

 こういったタイプは,まず相手の意見や気持ちに共感する能力が欠如しています。また,自分の業績や才能だけを自慢し,常に周囲から賞賛されたい,優れていると認められたいという欲求を持っています。

 さらに,能力のある人を見ると嫉妬し,他人も自分に嫉妬していると思い込みがちです。プライドも強く,相手が従属することを期待します。かと思うと,有名な人や地位の高い人に憧れ,そういう人たちには理解されたいと強く願います。対人関係では,自分自身の目的を達成するために他人を利用しようとするため,敬遠されたり嫌われたりします。

 こうしたケースでは,部下たちは内心では上司が他の部署へ異動することを願ったり,「病気にでもなって倒れて欲しい」と思ってしまうものです。もちろん,自分自身もこんな上司の元を離れたい,異動したいという気持ちが強くなります。異動が叶わなければ,質問者のように会社を辞めたいと思い詰めてしまいます。

 自己愛が極めて強い場合は,基本的に愛情飢餓感が強く,周りに対しては不信感や嫌悪感を抱いています。従って,「愛情」を満たしてやることが大切ですが,そう簡単にはいきません。だからといって別の職場に移ったところで,同じタイプの上司がいる可能性はゼロではありません。よく言われる「上司を選べない」のも,日本の企業社会では事実です。

 そこで,あなたがとれる対応方法としては,次の3つが考えられるでしょう。

 第1は,直属の上司のさらに上の上司に話をして協力してもらうことです。通常はこの方法が最も現実的でしょう。しかし,その上司に時間的な余裕がなかったり,直属の上司との関係が悪かったり,話を聴く気がなかったりすると,期待薄になります。

 第2は,率直に自分の気持ちを上司に伝えてみることです。その上司と話をする機会を作って,「自分の期待する上司像」を素直に伝えてみるのです。

 多分あなたは,「そんなことをしても効果はない」,「そんなことできるはずがない」と思うでしょう。ところが,コミュニケーションは不思議なもので「インタラクション」(相互作用)によっても相手は変化していくものです。勇気を出して,自分の気持ちを伝えてみてください。1対1で話し合うのが難しければ,部下たちが団結して上司に提言するのもいいでしょう。

 第3は,自分でストレス解消をすることです。同僚同士でその上司の悪口を言ってうっ積したものを解放したり,自分の好きなこと,やりたいことをやって心身の不快感を無くすのです。多くの人にとっては「当たり前」とも言える対処方法ですが,これができないでいる人も増えています。

 いかがですか。この3つの方法からトライできそうなものから実行してみてください。

武藤 清栄
東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。著書に「人の話を聞ける人聞けない人」(KKベストセラーズ)など