Q 会社が実施する健康診断を必ず受けるよう,上司から強く指示されますが,仕事が忙しいし面倒なので,この数年間受けていません。会社の健康診断は必ず受けなければならないのでしょうか。健康診断の結果を会社が知ることは,プライバシ侵害になると思うのですが。 (35歳,男,SE)

 ITエンジニアの忙しさを考えれば,質問者と同じように考えている人は結構いるのではないでしょうか。

 社員の健康を守るための法律である「労働安全衛生法」は,「事業者は,労働者に対し厚生労働省令で定めるところにより,医師による健康診断を行わなければならない」(第66条第1項),「労働者は,前各項の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない」(第66条第5項)と定めています。つまり,会社には健康診断を実施する義務があり,社員にはそれを受ける義務があるのです。

 また,厚生労働省令(厚生労働大臣が制定する命令)である「労働安全衛生規則」は,健康診断は1年以内ごとに1回,定期的に表に示す項目を実施するよう定めています。会社の健康診断を受けたくない人は,表に示された項目について自分で医師の診察を受けて,その結果を会社に提出してもよいことになっていますが,その時間と費用は自己負担となります。

 さらに,会社には健康診断の結果を記録する義務と(労働安全衛生法第66条の3),社員に結果を通知する義務があります(第66条の6)。表に示した項目については,会社はその結果を知らなければならないのです。従って,表に示した範囲内では,プライバシの問題は発生しません。

 もっとも,健康診断の実行責任者である「衛生管理者」には,診断結果を社員の上司に知らせる義務はありません。実際,衛生管理者が過去の受診状況などの情報を上司に伝えることはほとんどありません。

 質問者の場合,衛生管理者が上司に診断を受けさせるよう頼んだのでしょう。社員の管理監督者である上司にとっては,部下に健康診断の受診を勧めることも仕事の一部なのです。

 健康診断の活用法についても少し触れておきましょう。

 数値で結果が示されている項目については,まず基準値を超えているかどうか確認します。基準値を超えている場合にはマークが付いており,あるレベルを超えると精査のため医師の受診を勧奨する文言が記載されます。ただし,こうした指示はコンピュータが自動的に作成しており,医師が過去のデータとつきあわせた判断をしているわけではありません。ですから,自分で過去の結果と比較することが必要になります。

 基準値を超えた項目については,検査結果の確認とその原因をつきとめるための検査を受けることが大切です。結果が基準値内の場合も,必ず過去の結果と比べてみてください。健康状態に変化がないときには,検査の結果は小さな範囲でしか動きません。これを「その人の正常値」と考えるのです。この値の幅を大きく超えている場合は,健康上の変化が起こっている可能性があります。

河野 慶三
富士ゼロックス全社産業医
1970年,名古屋大学医学部卒。厚生省,熊本県公害部首席医療審議員,労働省主任中央じん肺診査医,産業医科大学助教授,自治医科大学助教授を経て,94年に富士ゼロックス本社産業医に就任。98年から全社産業医。著書に「働く人の健康管理」(労働新聞社)など。医学博士