Q 「この冬はハードスケジュールになりそうなので,インフルエンザのワクチンを接種しておくように」と会社から勧められたのですが,何となく面倒で放置しています。インフルエンザにかかったら,どんな治療を受けることが適切でしょうか。 (32歳,男,SE)

 風邪の80~90%はウイルスによって起こります。現在9種類のウイルスが知られていますが,そのうち「インフルエンザウイルス」の感染が原因で起こるものがインフルエンザです。インフルエンザは健康な大人の場合,ほぼ1週間で治癒しますが,日常生活に大きな犠牲を強いることの多い病気です。老人や小児のほか糖尿病などで免疫力の低下した大人にとっては,命にかかわる病気でもあります。

 インフルエンザは,38度を超える発熱を伴って突然発症し,全身の強いだるさと悪寒,それに鼻水,のどの痛みといった風邪の症状が見られます。こうした症状が4~5日続き,この間は仕事をすることが難しくなります。

 この病気の診断は,今までは流行状況の確認と医師の経験に依存していました。しかし1998年にインフルエンザ迅速診断キットが開発され,今では医師による「確定診断」が可能になりました。具体的には,鼻やのどの粘膜をこすって,その付着物にウイルスがいるかどうかを検査します。検査時間は15~20分です。

 ウイルス自体の増殖を止める薬も市販されています。A型ウイルスに効果のある「アマンタジン」(商品名シンメトレル),A型,B型の両方に有効な「ザナミビル」(商品名リレンザ)と「オセルタミビル」(商品名タミフル)の3つです。

 このうちザナミビルは,コンピュータ・シミュレーションによって開発された薬としても有名で,パウダー状の薬を専用の吸入器で吸入します。他の薬はいずれも内服薬です。これらの薬は,いずれも5日間続けて使うことが原則です。

 ただし,どの薬も感染後48時間以内に使わないと効果がありません。少しでも熱が出たら48時間以内に検査を受け,インフルエンザであることを確認してもらう必要があります。インフルエンザウイルスは,1個の感染細胞から8時間でおよそ100個増殖します。24時間たつと少なくとも100の3乗個,すなわち100万個に増殖するわけです。感染から症状発現までの期間は1~2日で,熱が出たときにはすでに大量のウイルスが体内にいることになります。ですからなるべく早く薬を使い,ウイルスの増殖を抑えることが必要なのです。これにより,高熱などの症状を1~2日だけに抑えることができます。

 インフルエンザにかからないためには,10月~11月にワクチンを接種することが最も有効です。ワクチンの効果は翌年の3月くらいまで続き,接種した人の約7割はインフルエンザにかからないとされています。前述の3種類の薬も予防に有効です。ただしこの場合,健康保健は適用されません。

 インフルエンザウイルスの感染は咳,くしゃみ,会話などで飛散した,ウイルスを多量に含む体液のしぶきや,空気中に浮遊しているウイルスが鼻や咽喉の粘膜に付着することで起こります。ドアや電車のつり革などに付いているウイルスが手を介して感染する可能性もあります。このため,外出から戻ったときには手を洗い,うがいをすることが感染予防上,効果的です。

河野 慶三
富士ゼロックス全社産業医
1970年,名古屋大学医学部卒。厚生省,熊本県公害部首席医療審議員,労働省主任中央じん肺診査医,産業医科大学助教授,自治医科大学助教授を経て,94年に富士ゼロックス本社産業医に就任。98年から全社産業医。著書に「働く人の健康管理」(労働新聞社)など。医学博士