仮想化やシンクライアント、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)ソリューションの提供など、富士ソフトが最近になって新規ビジネスを相次いで発表している。

 5月には、シンクライアントの技術やノウハウを持つエム・ピー・テクノロジーズとの協業を発表。シンクライアントソリューションの構築・販売を推進する。最新の技術検証を目的とした「シンクライアントソリューション検証センター」も設立し、同ビジネスへ本格的に参入すると宣言した。

 情報系のSaaSソリューションや仮想化技術を組み合わせた新しいサービス事業、「FSサービス(SaaBIS:Software as a Business Innovation Service)」の展開も開始した。これは自前のデータセンターを活用したもので、独立系ベンダーである強みを生かすことで他社のSaaSソリューションを集め、独自のサービスを構築していく。5年で50万ユーザーの取得を目指す方針である。

 6月には米グーグル日本法人とSaaSアプリケーション「Google Apps Premier Editon」の代理店契約を結んだ。Google Apps Premier Editonは、電子メールやチャット、スケジュール管理、ドキュメント共有などの機能を備える、SaaS型のコラボレーションツールである。今後5年間で、同社は65億円の売り上げを計画している。

 「5年目には売り上げ30億円、35万人のユーザーを獲得する」(間下浩之ソリューション事業本部副本部長兼SaaS部長)と意気込む。

 矢継ぎ早に打ち出す施策の背景には、富士ソフトが抱く大きな危機感がある。

 「4、5年前から(NECや日本IBMなど有力取引先である)大手メーカーからの発注量が落ちており、経営環境が厳しくなってきた」と、生嶋滋実 常務取締役は打ち明ける。

 ソフト業界で優良企業になることを目指し、新卒の大量採用とM&A(合併・買収)を推し進めてきた同社だが、2005年度の売上高1795億円、経常利益120億円(いずれも連結)をピークに業績は停滞している。

 07年度の連結売上高は1707億円(前年度比0.7%増)でグループ全体の社員数は約1万人に達した。携帯電話市場の急拡大が成長の原動力だったが、組み込み開発の勢いにも陰りが見えるようになった。

 下請けのビジネスにも限界がある。このままでは台頭著しい中国やインドなど外国企業との価格競争に巻き込まれてしまう。

 「従来は技術者を早期育成し、メーカーからシステム構築を請け負えばよかった。売り上げの80%がメーカー経由(今は50%)でも、利益を得ることができた。だが下請けや受託開発だけのビジネスモデルでは、もはやかつてのような売り上げの伸びは望めない」と生嶋常務は話す。

 「建設業も今では大手ゼネコンが4社程度で、下請けは利益の出ない構造になっている。システムのプログラム開発は誰でもできるようになり、かつての成長産業がいまや成熟産業になった。コストダウンの波が押し寄せ、海外に生産がシフトするのは多くの業種が経験したことだ」(生嶋常務)。

 そこで5年前にはデータセンターを開設し、アウトソーシングなどサービス事業を強化した。自前の商品やアライアンス商品も急ピッチでそろえた。アウトソーシングなど新規事業の売り上げは、07年度には売上高の12%程度を占めるまでに成長した。

 こうした成功例を生かして、富士ソフトは新しいビジネスの開拓を進めていく。10年度には連結で売上高2000億円、経常利益124億円にする考えである。受託開発などこれまでの事業は今後、横ばいになるとみている。

 創業者の野澤宏氏が会長になるなど、経営体制の刷新も推進している富士ソフト。6月に社長就任したばかりの白石晴久氏をはじめとした新たな経営体制の手腕は、新規ビジネスをいかに伸ばすかにかかっている。

■変更履歴
ソリューション事業本部副本部長の氏名を間田浩之氏としていましたが、間下浩之氏の間違いです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/8/22 12:30]