従来の携帯電話とAndroid端末の違いやAndroid提供の狙いを,米グーグルで Androidの開発を指揮するアンディ・ルービン氏に聞いた。

マッシュアップとクラウドが携帯を変える

「インターネットの力を私は信じている」。
「インターネットの力を私は信じている」
Androidの開発を指揮するアンディ・ルービン氏

Androidを搭載する携帯電話と,従来の携帯電話とは何が違うのか。

 モバイル・マッシュアップだ。Androidでは,新しいAPIをどんどん追加できるアプリケーション・フレームワークを用意した。我々が用意したフレームワークを使えば,第三者が新しいアプリケーションを作れるし,そのアプリケーションの機能を使って,別の誰かが新しいアプリケーションを作ることもできる。さらにAndroidではインターネットで公開されている各種サービスも自在に使える。これらが相互に作用することで,想像もできないような新しいサービスが生まれる。これがモバイル・マッシュアップの力だ。

 賞金コンテスト「Android Developer Challenge」を通じて開発者からアプリケーションを募集したが,多くの開発者がマッシュアップの手法を使ってアプリケーションを作ってきた。

以前「パソコンのようなOS中心のモデルでは,携帯電話では革新を起こしにくい」と語っていた。これは,どういう意味か。

 携帯電話はバッテリで駆動する。CPU負荷が高いアプリケーションでは,バッテリをすぐに使い切ってしまう。そのため,携帯電話ではCPUを長時間使えない。だからイノベーションが起こりにくいと言ったのだ。

 しかし,インターネット上の豊富なCPUパワーと大容量のストレージを使うクラウド・コンピューティングに移行できれば,この壁を突破できる。クラウド側で多くの処理を分担すれば,携帯電話はこれまでとは違う機器になれる。そのためには,クラウドを意識したAndroidのようなプラットフォームが必要になるわけだ。

開発言語としてはJavaを,Javaアプリケーションの実行環境としてはモバイル用のJ2ME(Mobile Edition)ではなく,パソコン用のJ2SE(Standard Edition)を選んだ理由は。

 Androidの狙いは,新しいOSや新しい開発言語,新しいコンパイラを作ることにはない。既に世の中には開発者が親しんでいる優れた言語があるのだからそれを使うべきだと考えた。この観点で,開発者が多く,開発環境が整っていたJavaを選んだ。

 J2SEを選んだのは,現在の携帯電話が十分パワフルだからだ。以前は携帯電話の処理能力が十分ではなかったため,J2MEのような限定的な仕様を選択せざるを得なかった。しかし,現在の携帯電話は,5年くらい前のパソコンと同等の性能を持つようになっている。パソコンのデスクトップと同じ環境を携帯電話の上に持ってくるのが我々の使命だと考えている。だから,J2MEよりもJ2SEの方がAndroidには合っている。

携帯電話事業者がネットワークを自由に使わせないなどクローズな方針をとればAndroidが普及しないかもしれない。

 私はインターネットの力を信じている。携帯電話事業者が1社だけなら壁になるかもしれないが,現実はそうではない。複数の事業者による競争がある。インターネットのサービスと携帯電話事業者に特化したサービスの数を考えれば,その違いは歴然だ。クローズな状態を続けられるとは思えない。

Android搭載携帯電話はいつ,どの地域で出荷されるのか。

 当社はメーカーや携帯電話事業者をコントロールしないので分からない。ただし,2008年の終わりごろに出てくるのは間違いない。世界のどの地域からも登場する可能性がある。

3G版のiPhoneが登場したが。

 iPhoneとAndroidは比較の対象ではない。Androidは端末そのものではなく,誰もが利用できるオープンなプラットフォームだ。Androidが携帯電話に搭載されればユーザーが,パソコンと同じようにインターネット・サービスを存分に利用できるようになる。同じモバイル・プラットフォームが世界中に広がれば,人々は住んでいる場所や人種を越えてつながり合える。Androidでそんな革命を起こしたい。