7月24日午前0時26分。またも東北地方で大きな地震が発生し,岩手県の洋野町では最大震度6強を記録した。幸い人命にかかわる被害はなく,企業に大きな影響もなかったようだ。

 筆者は自宅でテレビを見ていたが,揺れの感覚から遠くで大きな地震が起こったと直感した。やはり気になったのが緊急地震速報の配信状況だ。ここ最近,緊急地震速報を含む気象庁のシステムで,設定ミスなどのトラブルが相次いでいるからである。つい最近も,千葉の銚子で発生した地震の最大震度2弱を,誤って5弱と配信してしま
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 今回,気象庁は地震計での検知から20秒後まで緊急地震速報を発表できず,震源地の周辺では大揺れのS波(主要動)の後に警報が届いた。緊急地震速報の現時点での技術的な限界が露呈した格好である。

 限界の一つが予測の精度だ。地震計でキャッチした揺れ情報から,緊急地震速報を発表する基準である「最大震度5弱以上」を推定できなかった。検知から約4秒後に出した第1報では最大震度を「4」と小さく推定。その後,約20秒後の第6報でやっと「震度5弱程度 岩手県沿岸北部,岩手県沿岸南部,岩手県内陸南部」と推定し,発表した。

 気象庁は「今回のように震源が深く,かつ大きな揺れになる地震はもともと少ないため,震度の推定に必要な過去のデータが十分にそろっていなかった。今回のデータを分析して,精度を向上させていきたい」としている。

 もう一つの限界が,迅速さを最も必要とする,震源近くへの情報配信だ。今回だけでなく,6月に岩手県南部の内陸部で発生した最大震度6強の地震でも,震度6強を観測した岩手県奥州市では,速報がS波の到達に間に合わなかった。同じく震度6強の宮城県栗原市では,速報とS波の到着がほぼ同時だったという。

 このように緊急地震速報には,まだ“弱点”がある。それでも筆者は,緊急地震速報は企業のリスク管理に有用だと考える。

 ITを活用すれば,数秒の猶予でさえ貴重なものとなる。例えば,緊急地震速報をトリガーとして,設備やコンピュータを制御する取り組みだ。例えば宮城OKIは緊急地震速報の情報を基に,生産ラインを止めたり,電気的に有毒ガスなどの栓を制御したりしている。システムのハードディスクを停止させ,データが破損するのを回避する仕組みを導入する企業も出てきている。

 各個人の心構えによっても,緊急地震速報の情報の価値を高めることができる。緊急地震速報に詳しい防災の専門家は「いま地震が起こったら自分がどこに待避するかを常に考える習慣を身に付ければ,たとえ猶予時間が少なくても何とか対処できる」と言う。

 緊急地震速報の情報を有用なものとして活用するのか,使えないものとして見過ごすのか。企業にしても個人にしても,両者のリスク対応に大きな差が出るのは明白だろう。

※本記事はITproメール SS&ERMスペシャル(2008年7月29日)のコラムを再録したものです