日本版SOX法(J-SOX)の適用が始まって3カ月半。3月期決算の企業にとってJ-SOX対応に残された期間は8カ月余りになった。そうしたなか,金融庁は6月に「問い合わせがあった事項のうち広く知っておいてもらいたいもの」として,J-SOX対応に関する47のQ&Aを新たに公開した。本番年度が始まっているにもかかわらず,J-SOXはまだまだ流動的な状況だ。

 特に今,公認会計士や学者,そして企業の担当者の間で話題になっているのが「重要な欠陥」の考え方である。J-SOXでは,財務報告にかかる内部統制のうち,財務報告の信頼性に影響を及ぼす可能性のある事象を「不備」と「重要な欠陥」に分けている。「不備」は軽微な事象を指し,「重要な欠陥」はより重大な影響がありそうな事 象を指すが,「重要な欠陥があっても,すぐに財務報告に虚偽記載や間違いがあるものではない」とされている。

 7月5日に開催された内部統制研究学会では「重要な欠陥」を巡り様々な議論が交わされ,『J-SOXの詳細を知らない一般投資家などは,「重要な欠陥」があるとすぐに「財務報告に問題がある」と誤解するのではないか』という懸念が指摘された。金融庁もQ&Aの中で,「重要な欠陥」が即座に「財務報告の問題」となるわけではないと 強調しているが,内部統制報告書の初年度の開示が始まる2009年の5月以降になるまでは,一般の投資家がどのような判断を下すかの結論は出そうにない。

 はっきりしているのは,初年度は「重要な欠陥」を開示してもJ-SOXの制度上問題はないが,それを2年目以降も放置しておくと問題になる,ということだ。東京証券取引所は「重要な欠陥」があった場合でも即時開示を義務付けていないが,2年目以降に,1年目にあった「重要な欠陥」が放置されている場合は,「それなりの説明を求めるかもしれない」との考えを示している。

 IT全般統制の整備・運用の真価が問われるのも2年目以降だ。IT全般統制に問題があった場合でもすぐには「重要な欠陥」にならないと,J-SOXの教科書である「実施基準」には書かれている。だが,「不備を放置しておくと重要な欠陥になり」と説明している。

 J-SOX対応の初年度はまだ始まったばかり。だが改善計画を視野に入れておかないと,2年目以降に大きな問題が発生しそうだ。

※本記事はITproメール SS&ERMスペシャル(2008年7月15日)のコラムを再録したものです