2007年11月に突如姿を現した米グーグルの携帯電話開発プラットフォーム「Android」。メーカーが無償で使えること,ソフトウエア追加/変更が自由であることに注目が集まった。しかし,グーグルの目的はそこにはない。「携帯電話の世界に,インターネット並みの革新のペースを持ち込むこと」──。米グーグルでAndroid開発の指揮を執るアンディ・ルービン氏は,Androidの真の狙いをこう語る。

 両者のギャップを埋めるのが「マッシュアップ」だ。インターネットでは,各社が公開するWeb APIを組み合わせて新たなサービスを創り出すマッシュアップにより,日々新しいサービスが生まれている。例えば,グーグルが提供する「Googleマップ」を活用したマッシュアップ・サービスをインターネット上で探してみよう。会社紹介のページに用意された案内地図,世界の森林破壊の様子を見せるサイト,観光名所を案内するガイドマップなど,Googleマップと重ね合わせた無数のサービスを見つけられる。

 ところが,現在の携帯電話にはマッシュアップを利用したサービスがほとんど存在しない。通信先が制限されるなどマッシュアップでの開発がほぼ不可能だからだ。

 Androidには,マッシュアップを可能にする仕組みが用意されている。既にパソコンで使われているインターネット上のサービスを駆使して,携帯電話上でもマッシュアップ・アプリケーションを開発できる。さらに,ネットワーク側にある膨大なコンピューティング・リソースを使う「クラウド・コンピューティング」と連携することで,これまでには想像できないサービスが登場することになる。

 勘の鋭い開発者たちは,既にその可能性に気付き,新しい波に乗ろうと動き始めている。通信事業者の中にも,現在の開発体制を見直す動きがある。まずは次に紹介する4種類のアプリケーションを見てほしい。Androidが運んでくる“モバイル・マッシュアップ”が創出する新しい携帯電話サービスの姿が垣間見られるはずだ。

[シーン1] 出張にて…ENKIN

「どの方向に進めばいいのかな?」。先方に教えられた最寄り駅に着いたはいいが,初めての街だけに勝手が分からない。会社案内のページから印刷した地図が手元にあるが,大雑把すぎて使い物にならない──。

 そんなときに役立つのが,日本への留学経験があるドイツの大学生が開発したアプリケーション「ENKIN」(遠近)だ。自分の視界と同じ方向に携帯電話のカメラをかざすと,風景の映像の上に,目的地のビルや周囲のランドマークを示すマーカーが現れる(写真1)。GPSを内蔵したAndroid端末から得られる現在位置,電子コンパス(地磁気センサー)から得る方位,ネット上から取得した目的地やランドマークの位置を使ってマーカーを表示する場所を決定する。劇場や映画館,電車内で自分の座席の位置を示す拡張も考えられるという。

写真1●「ENKIN」(http://www.enkin.net)
「ENKIN」(http://www.enkin.net
ドイツの大学生ラファエル・スプリング氏とマックス・ブラウン氏が開発した。

 ENKINには更なる構想がある。自動車や電車といった動く物体にマーカーを付けることだ。例えば,駅ホームに入ってきた電車が,自分が乗車すべき電車かどうかを調べたり,こちらに向かってくる友人の車を発見したりできるようになる。「自動車のナビゲーション・システムや携帯電話のGPS情報を交換するサービス,鉄道会社が電車の運行情報を提供するサービスが出てくればすぐに実現できるのではないか」(開発者のラファエル・スプリング氏)という。

[シーン2] 家庭にて…Cooking Capsules

「今日のお昼,何にしようかな」。携帯電話の画面で,今日の気分にあったメニューを探し始めた。【トマトとバジルの冷製パスタ】。よし,これにしよう。まずは作り方をチェック。レシピ情報を保存して,いざ買い物に出発──。

写真2●「Cooking Capsules」(http://www.cookingcapsules.com)<br>米国在住のメリー・アン・コッター氏とインドの開発者ムスセルバ・ラマドス氏が共同で開発。二人はネットの掲示板で知り合い開発を始めた。
写真2●「Cooking Capsules」(http://www.cookingcapsules.com
米国在住のメリー・アン・コッター氏とインドの開発者ムスセルバ・ラマドス氏が共同で開発。二人はネットの掲示板で知り合い開発を始めた。
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 こうした一連の作業を単一のアプリケーションとして提供するのが,「Cooking Capsules」だ(写真2)。米国在住のメリー・アン・コッター氏とインド在住のプログラマであるムスセルバム・ラマドス氏が,Androidアプリケーションの賞金コンテスト向けに共同で開発した。

 Cooking Capsulesは「Watch(見て)」,「Shop(買って)」,「Make(作る)」の三つのステップで成り立っている。

 まずは,ユーザーが料理リストの中から,気になった料理を選択する。すると短い映像が流れ,料理の手順が示される(Watch)。

 映像と同時に必要な食材のリストとレシピが端末に取り込まれる(Shop)。必要であれば,端末のGPSで取得した現在位置を手がかりに,食材がそろう周囲のスーパーを検索できる。

 料理を作る際は,端末に保存されているレシピを確認しながら作ることが可能だ(Make)。