写真1●米スパンション メディア・ストレージ・ディビジョンのハンス・ウィルデンバーグ エグゼクティブ・バイスプレジデント
写真1●米スパンション メディア・ストレージ・ディビジョンのハンス・ウィルデンバーグ エグゼクティブ・バイスプレジデント
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 これまでITベンダーはIT機器を部品レベルまで見直し,省電力化を進めてきた。ただ,それはプロセサやハードディスクが中心だった。フラッシュ・メモリー大手の米スパンションは,これまでにない新しい発想でIT機器,特にサーバーのメモリーにメスを入れようとしている。携帯電話機などが採用している,消費電力が小さいフラッシュ・メモリー技術を,DRAMの代わりに使おうという試みだ。

 「現在,多くのIT機器が使っているDRAMに頼るのはもはや限界だ」。こう指摘するのは,米スパンション メディア・ストレージ・ディビジョンのハンス・ウィルデンバーグ エグゼクティブ・バイスプレジデント(写真1)だ。「DRAMは技術的なカベに直面している。セル構造が複雑で,集積度を上げるのが難しい。その上,消費電力が大きく,サーバーの省電力化を進める上では足を引っ張る存在になっている」。

写真2●スパンションが開発した「EcoRAM」
写真2●スパンションが開発した「EcoRAM」
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 スパンションが開発したのは,「EcoRAM」と呼ばれるメモリー製品だ(写真2)。早ければ2008年内にもEcoRAMを搭載したサーバー製品が市場に登場する。同社によれば,EcoRAMの消費電力はDRAMの8分の1程度。メモリーはプロセサに次いで消費電力が大きい部品なので,大容量のメモリーを必要とするサーバー機ほど,省電力効果が大きくなる。

 ただ単純にフラッシュ・メモリー技術を転用したわけではない。フラッシュ・メモリーは消費電力は小さいものの,書き込みや読み出しの速度が遅いため,サーバーなどの主記憶領域には不向きだった。スパンションは独自の「MirrorBit Eclispe」と呼ぶアーキテクチャを採用し,EcoRAMを開発。読み出し速度を10倍程度まで向上させた。

インターネット向けサーバーに向く

 それでも,DRAMと比較すると書き込み速度は遅い。その点についてはサーバーの用途を限定することで補う。メモリー領域への書き込み処理が少ない用途,例えば検索エンジンや動画配信のサーバーなどだ。

 「グーグルは約100万台,マイクロソフトは約40万台と,ネット企業が所有するサーバーの数は膨大だ。今後さらに増えるだろう。メモリーの省電力化は,グリーンITの手法として効果が見込める」とウィルデンバーグ氏は強調する。

 EcoRAMをサーバーに実装する際はDIMMソケットを使うが,プロセサなどからEcoRAMにアクセスするための仕組みが別途必要になる。つまり,通常のサーバー製品にそのままEcoRAMを利用することはできない。スパンションは,同社が出資するベンチャー企業ヴィリデントと共同で,EcoRAMを制御するためのソフトウエアとASICを開発。「GreenGateway」と名付け,EcoRAMと一緒に出荷する方針だ。「PCサーバーのメーカーと協業し,あらかじめEcoRAMを組み込んだサーバー製品を出荷することになるだろう」(ウィルデンバーグ氏)。

 また,大容量化も実現した。1つのDIMMに32Gバイトのメモリーを搭載できる。「DRAMは今4Gバイト程度だろう。EcoRAMは今後さらに製造プロセスを改善して大容量化を進め,2012年には256Gバイトにする予定だ」と,ウィルデンバーグ氏は打ち明ける。

 価格については,DRAMと比較すると高価になるのは間違いない。「消費電力や容量で上回る点を踏まえれば,DRAMに十分対抗できる価格になると考えている」(ウィルデンバーグ氏)。