システム開発プロジェクトが危機に陥いる最も多い原因はプロジェクトマネジメントの不備である。

 そこで,まずプロジェクトマネジメントの不備が原因で起こった「火事」の火消し術をシステム開発現場の実例と火消しの専門家の技を基に紹介していこう。

 もちろん,プロジェクトマネジメントの不備と一言で言ってもそのケースは様々である。

 しかし,中でも最も多いケースは(1)プロジェクトの目標が不明瞭,(2)不適切な計画/体制,(3)進ちょく管理の不備,の三つであることが取材を通して明らかになった(図1)。

図1●プロジェクトマネジメントにかかわる火事の主な原因と対策<br />Part2では,プロジェクトマネジメントの不備が原因で起こった火事の火消し事例を紹介する
図1●プロジェクトマネジメントにかかわる火事の主な原因と対策
Part2では,プロジェクトマネジメントの不備が原因で起こった火事の火消し事例を紹介する
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 以下では,それぞれのケースについて順番に,システム開発プロジェクトの現場で火消しに成功した実例を見ていこう。

(1)プロジェクトの目標が不明瞭
具体的な目標を設定し,共有する

 「そもそもこのプロジェクトで何を実現すればよいのか」――。プロジェクトの目標が明確でないと,プロジェクトは混乱し,スケジュール遅延や品質悪化,コスト超過などの火事につながる。「何を優先すればよいか」「どんな体制で進めていくか」を明確に決められないからだ。

 こうしたケースでは,まずはプロジェクトの目標を改めて明確にしなければならない。

 大手企業の危機プロジェクト支援に携わっているローリーコンサルティングの文山伊織氏(代表パートナー)も,「危機支援の際は,まずは『これをやればプロジェクトを終わらせることができる』とプロジェクトのステークホルダー(利害関係者)全員に思ってもらえることを,プロジェクトの目標として再設定する。その結果,目標に到達するためにプロジェクトで取り組むべき対象範囲や取るべき体制/実現手段が見えてくる」と断言する。

 実際,スケジュールが遅延し始めたある企業の会計システム開発プロジェクトを支援したときは,「これまで営業部門の担当者が処理していた伝票管理業務をすべて経理部門に移管する」という具体的な目標を,新たに掲げた。

 ポイントは,「日々の業務に直接関連する具体的な目標を立てること」(文山氏)。いかに日々の業務を効率よく進めるかがプロジェクト本来の目標で,システムを導入すること自体が目標ではないからだ。

目標を共有する会議を新設

 プロジェクトのメンバーが目標を認識せず,目標が不明瞭なまま要件定義/基本設計を進めてしまった結果,多数の手戻りが発生し,要件定義/基本設計が遅延した例を挙げよう。

 計測/試験機器ソフトの開発会社,アンリツエンジニアリングは,2003年2月に基幹業務システム開発プロジェクトを開始した。

 以前は,開発/営業部門から上がってくるデータからコストを算出するのに1~2カ月ほど要していた。これを,「リアルタイムに算出して迅速に経営的な対策を講じられるようにすること」が,このプロジェクトの当初の目標だった。この目標を同社の経営企画部門が策定した後,社内のソフト開発部門のエンジニアで構成するプロジェクト・チームが開発を始めた。

 ところがプロジェクトが始まって半年ほど過ぎた基本設計フェーズで,目標策定に携わった経営企画部門の担当者,佐藤誠則氏(経営システム開発部部長)は「この設計書でシステムを構築しても,当初の目標を達成できそうにない」と感じた。このままでは大火事になることは目に見えていた。

 このプロジェクトでは,プロジェクト・メンバーが営業部門や経理部門の担当者にヒアリングしながら要件定義/基本設計を進めていた。

 その結果,各部門ごとの業務は効率化できるが,「開発/営業部門の担当者が入力した情報を基に,経理部門の担当者が即座にコストを算出するという当初の目標を実現できる要件にはなっていなかった」(佐藤氏)。プロジェクト・メンバーにとっては目標が不明瞭になっていたのだ。