早期発見が重要──うつ病をはじめとした心の病も、他の病気と同様だ。しかし、その早期発見が難しい。

 「心の病に関する調査」では、心の病と診断されたことがある人の76.8%が「自分で気付いた」と答えている(図1)。自覚率は高いが、他人に相談することは少ない。会社の同僚が心の病にかかったことを知った理由として「本人から打ち明けられた」を挙げたのは12.9%にすぎないことが、それを示している(図2)。厚生労働省が07年に発表した調査(保坂隆「自殺企図の実態と予防介入に関する研究」)でも、自殺者が事前に周囲に相談したケースはわずか2割。自殺者の6~8割がうつ病またはうつ状態だったとされており、周囲がそのサインを拾い上げられれば、命を救えたかもしれない。

図1●あなたは「心の病」だと自分で分かりましたか
図1●あなたは「心の病」だと自分で分かりましたか
図2●職場の同僚が「心の病」にかかったと知ったのはいつですか
図2●職場の同僚が「心の病」にかかったと知ったのはいつですか

 図2を見ると、同僚の様子がおかしいと感じたケースでも「遅刻や欠勤が増えたため」が27.6%と断トツに多く、出退勤に影響が出るまで気付けていないことが分かる。日本大学医学部などで講師を務める平陽一医学博士はこの理由を、「最近は自分の仕事で手一杯なため、部下の面倒を見る余裕がない上司が増えているから」と指摘する。

 専門家の多くが挙げる早期発見・対処のポイントは2つある。1つは上司が積極的に情報を収集して、変化に敏感になること。もう1つは、企業が早期発見につながる仕組みを取り入れることだ。

「眠れている?」── 最新チェック20

 「鈍感な上司が(メンタルで問題が出る)最大の原因。上司が理解できれば救える場面は多いが、なかなかできず、メンタルヘルス対策制度も十分に活用できない」(ユーザー企業、管理職、40歳代女性)。調査の自由記入欄に寄せられた意見の一つである。

 では、上司はどうすればよいのか。うつ病患者を職場に復帰させることを目的としたNPO法人(特定非営利法人)である、うつ・気分障害協会(MDA)の山口律子代表は、「まずは部下一人ひとりの生活パターンを把握してほしい」と訴える。理由は、「特にIT技術者はSOSサインを出すのが苦手だから」(山口代表)だ。

 朝型か夜型かや食事を取る習慣など、各人のパターンを知っていれば変化に気付きやすい。山口代表は、「『眠れている?』とか『昼食は食べた?』という質問をさりげなくできるようにしたい」と指摘する。この、睡眠と食事は規則正しい生活の基本。「夜型で慢性的な睡眠不足の人、朝食を抜きがちな人に、生活パターンを改めてもらうためにも同様の質問をするといい」と山口代表は続ける。

 さりげない質問をするためには、日ごろから言葉によるコミュニケーションが欠かせない。調査では、「職業柄パソコンに向かって黙々と作業することが多く社内での会話が少ない。雑談でさえチャット。仕事の問い合わせも、隣の人に声をかけずに、遠くにいる私にメールで問いかけてくる」(ITベンダー、プログラマ、40歳代女性)という声があった。メールやチャットに頼っていては、会話からくみ取れる表情や様子、態度などの情報は入ってこない。「身だしなみ、態度がだらしなくなった」「動作が鈍く、スローになった」「表情が堅くなった」「空笑い、独り言が増えた」などは、電子的なやり取りでは気付けない。

 個々の生活パターンを知った上で、最近の傾向を鑑みて山口代表にチェック・ポイントを挙げてもらった(図3)。改めてチェックしてみてほしい。

図3●部下のうつ病を見抜く最新チェック・ポイント20
図3●部下のうつ病を見抜く最新チェック・ポイント20
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 もし、部下の様子がおかしいと感じたら、体の不調を問いかける。心の病では、眠れない、体がだるい、疲れる、食欲が落ちるといった身体面の不調を感じることが多い。「『体がだるそうだけど大丈夫?』といった体の不調について尋ねると、相談のきっかけにつながる」(山口代表)(図4)。

図4●うつ病の症状が見受けられたら、すぐに声をかけて、カウンセリングなどへつなぐ
図4●うつ病の症状が見受けられたら、すぐに声をかけて、カウンセリングなどへつなぐ

 ただ、ここから先は専門家に任せたい。自社の産業医や病院にかかることを勧める。上司がすべきは、早期発見と、専門家にかかりやすくするように仕事を調整すること。そして、実際にかかったかどうかのフォローだ。