今年も夏のJANOGの季節となりました。JANOGミーティングは今回で22回目。2006年のJANOG18(パナソニックセンター東京にて開催)以来2年ぶりに東京で開催されました。

 全国各地で開催される場合でも,JANOGミーティング出席者の約半分近い方々が東京近郊からの出席となりますから,東京で開催となると多くの方々が出席します。賑わいも華やかになるかと期待しつつ会場に向かいました。

海外にも情報発信するJANOG

 JANOG22は2008年7月10~11日,都内にデータセンターを構えるエクイニクス・ジャパンさんがホストとなり,品川の「THE GRAND HALL」にて開催されました。

 今回目を引いたのが,海外から出席された方々です。海外の方は四人参加され,このうち初参加は二人でした。

 初参加のうち一人はPhilip Smith氏で,彼はAPNICミーティングなどを中心にアジア・パシフィックで開催されている多くのNOG(JANOGの各国版)に出席されています。APNICミーティングなどでも多くの提案を出されている著名な方です。

 そしてもう一人は,James Spenceley氏です。こちらもAusNOG(オーストラリアのNOG)を中心に活動されている方で,APNICミーティングなどアジア・パシフィックで活躍されています。

 このほかに,JANOGミーティングで何度か発言されているAPNICのMiwaさんや,いつもおなじみのIIJのRandyさんが参加されていました。

 MiwaさんはAPNICの方といっても日本語の理解に全く問題ありませんが,他の三人は日本語がほとんどわかりません。それでも,アジア・パシフィックでのJANOGの活動に以前から興味を持っているとのことで,Philip氏とJames氏は今回初参加として来日されました。

 実は,この背景として切っても切れないのが,現在JANOGで活動中の「i18n-WG」の存在です。i18nというのは,Internationalization(最初の'i'と最後の'n'の間に18文字あるので'i18n'と省略されているのです)の略で,“JANOGの国際化”を目的として活動しているワーキング・グループです。

 “JANOGの国際化”とは,JANOGにおける議論を世界に公開していくことです。そもそもJANOGというのは,日本で日本語を用いてコミュニケーションすることで,日本におけるネットワーク運用を考えるグループです。このJANOGのミーティングで行われる議論は非常に質が高く,その先見性や洞察性はアジア・パシフィックのみならず国際的に通用するレベルのものです。これらの議論が国内だけで終始しているのはもったいないということで,i18n-WGが発足しました。

 i18n-WGはJANOGで行われた議論の概要を英語に翻訳し,英語のページとして公開するという活動をしています。ここには,JPNICの前村 昌紀さんをはじめ,多くの英語堪能な方々がボランティア・ベースで参加しています。

写真●ミーティングの冒頭で紹介されたi18n-WGのメンバー
写真●ミーティングの冒頭で紹介されたi18n-WGのメンバー
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 JANOG22ミーティングの冒頭で,i18n-WGの活動報告が前村さんとベライゾン ビジネスの伊賀野 康生さんから報告され,i18n-WGのメンバーも紹介されました(私もメンバーですが,残念ながら仕事の都合で欠席してしまいました)。

 このページの情報は,各NOGなどに届けられ,多くの反響をいただいています。この結果,先に紹介された海外の方々が参加される運びとなったのです。「参加したからには発言しましょう」ということになり,Philip氏はプレゼンテーションを行い,James氏も会場からコメントするなど積極的に発言されていました。

 原則的にJANOGは,日本語ポリシーを持っているため英語で議論されることはありませんが,海外からの参加者が日本以外の視点でコメントすることは,JANOGコミュニティにとって今後大きな活力になるように思えます。

IPv4アドレスは枯渇する?

 さて,話をJANOG22の議論に戻します。今回この記事で取り上げるのは,「IPv4アドレスの枯渇」に関するお話と,「オーバーレイ・ルーティング」のお話です。

 IPv4アドレス枯渇のお話は,1日目最後のプログラム「IPv4アドレス販売終了のお知らせ?」で議論されました。誤解のないように補足しますが,IPv4アドレスはまだ3年ほど枯渇しない予定です。

 議論のポイントは,(1)IPv4アドレスは本当に枯渇するのかどうか,(2)キャリア・グレードNATの問題──の二つでした。

 まず(1)のIPv4アドレスは枯渇するかどうかに関しては,すでにこの連載でも何度も取り上げているのでうんざりという感じもするかと思いますが,今後一年ほどで枯渇後に向けた対策が始まる可能性が高まってきます。JANOGの議論ではありませんが,私の周りでも多くのメーカーや業者がIPv6を意識し始めています。そろそろ手を打たなくては,対応コスト的,事業継続的にも不利になるという意識がだんだんと芽生えてきたようにも思えます。

 (2)のキャリア・グレードNATは,IPv4アドレスをプロバイダ・レベルで効率的に使うための技術です(詳しくは前回の記事へ)。前回の記事ではアドレス重複の問題に関する問題点を解説し,さらに「すべての問題は解決しない」と書きました。ミーティングでも,解決が難しい問題──特にNATが引き起こすさまざまな問題が提示され,議論されました。

 キャリア・グレードNATは大規模ネットワークの運用者としては今後必ず考えなくてはならない問題になろうかと思います。