iPodや,日本でもついに7月に発売されたiPhoneなど,次々に大ヒット商品を世に送り出す米アップル。その顔と言えるのが,創業メンバーで現CEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズ氏である。かつてアップルに勤務していた著者が,このカリスマ経営者の人となりをさまざまなエピソードを交えながら紹介。なぜここまでアップルが大成功を収められたのかを,7章にわたって分析している。

 ジョブズ氏のこれまでの道のりは決して平坦ではない。アップルの創業,マッキントッシュの発売,アップルからの追放と復帰,病気,iPhoneの発売──。まさに山あり谷ありの人生で,本書で書かれているエピソードの一つひとつが興味深い。

 エピソードを読む限りでは,ジョブズ氏は決して“いい人”ではない。自分の思い通りにならなければ非情な決断を下したり,周囲を振り回したりすることも珍しくない。アップル社内で,絶対的な存在として君臨する姿がうかがわれる。

 ただし筆者は,ジョブズ氏のワンマンさを批判してはいない。むしろ本書で,「丸く穏やかになったジョブズは,もうジョブズではない」と書いているように,むしろそのワンマンさこそが,アップルを成功に導いた要因と評している。常識を打ち破るような商品を世に送り出すためには,「正邪両面を持つことが必要」とし,一人の経営者として敬意を表している。

 目的を達成するために一切の妥協を許さない姿勢,交渉力,プレゼンテーション力など経営者として卓越した資質──。それらを読むと,iPodやiPhoneといったヒット商品が次々に誕生した理由も納得できる。

 各エピソードの後には短めのコラムを掲載。ジョブズ氏のエピソードを教訓に,経営者やビジネスマンがどういう行動を取れば良いかというヒントが書かれている。カリスマ経営者の実像を知るとともに,その姿勢から学べることは多そうだ。

スティーブ・ジョブズ 神の交渉力

スティーブ・ジョブズ神の交渉力
竹内 一正著
経済界発行
840円(税込)