UMPCやMIDのCPUには多様な要件がある。消費電力が低いこと,サイズが小さいこと,それでいてパソコンOSが動作し,動画共有サイトの動画を再生できる程度の性能を持つこと──といったものだ。

 現在,この条件を満たすCPUには,インテルのAtomや台湾VIAテクノロジーズの「VIA C7-M ULV」,米AMDの「Geodeジオード)」がある(図1)。どれもパソコン用CPUと同じx86アーキテクチャを採用する。とりわけ,インテルのAtomを搭載したUMPCやMIDが多い。

図1●UMPC/MIDの構成技術<br />OSにLinuxを使う製品も多い。CPUはTegra以外はインテルのx86アーキテクチャを採用する。TegraはARMアーキテクチャ。
図1●UMPC/MIDの構成技術
OSにLinuxを使う製品も多い。CPUはTegra以外はインテルのx86アーキテクチャを採用する。TegraはARMアーキテクチャ。
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フル稼働時の6%まで消費電力減

 Atomは積載するトランジスタの数を大幅に減らすことで省電力化を図った。Atomのトランジスタ数は約4700万個。約4億1000万個ものトランジスタを持つインテルのパソコン向けCPU「Core 2 Duo」の9分の1に過ぎない。インテルはAtomで,「Pentium Pro」以来採用してきたアウト・オブ・オーダー実行機能などを削除し,トランジスタ数の削減を実現したと見られる。

 Atomで採用された「C6ステート」も省電力化に大きく貢献する(図2)。これはCPUの動作を極限まで止め,消費電力を抑える技術である。インテルの説明によればC6ステート時の消費電力は100mWで,フル動作時の6%しかないという。モバイル端末では稼働中でも特に何もしていない待ち時間がある。C6ステートはこのようなCPUパワーを必要としない場面で使うものである。

図2●Atomには「C6ステート」という超省電力モードが実装されている
図2●Atomには「C6ステート」という超省電力モードが実装されている
C6ステートでは消費電力をフルパワー時の6%に抑えられる。C0がフルパワー時。

「Atomより10倍速い」MID向けCPUも登場

 Atomの強力なライバルとなり得るCPUも登場してきた。米NVIDIA(エヌビディア)がCOMPUTEX TAIPEI2008で発表したMID向けのプロセッサ「NVIDIA Tegra(テグラ)シリーズ」である。

 Tegraは携帯電話など数多くのモバイル機器で使われているARMアーキテクチャを採用する。ARM 11のCPUコアやGeForce(ジーフォース)のGPU(graphics processing unit),HD(high definition)動画の処理プロセッサなどを1チップに統合した。NVIDIAによれば,最上位のTegra 650は1080pのH.264動画を再生できるほどの性能を持つ。

 NVIDIAは明確にAtom対抗を打ち出し,「Tegraの電力消費はAtomの10分の1,サイズもAtomの10分の1。だが性能は10倍」(NVIDIAのマイケル・レイフィールド モバイル・ビジネス・ユニット・ゼネラル・マネージャー)とアピールした。

 ただし,TegraはARMアーキテクチャ。Windows XPなどのパソコン用OSは動かず,モバイル向けOSを使うことになる。この点については,「インターネットはx86アーキテクチャでなければならないという人がいるが,Webサイトはソフトウエアでできている。ハードウエアがARMアーキテクチャに基づいていても,Webページを閲覧する上では関係ない」(英ARMのイアン・ドリュー マーケティング担当バイス・プレジデント)と強調。FlashプレーヤなどWebサイトの重要技術はARMアーキテクチャ向けOS上にも十分に用意されていると説明した。これはx86アーキテクチャの機器であればネット・サービスが最も使いやすく,プラグインの互換性エラーも発生しないと主張するインテルへの反論である。

 Tegraを使うMIDは,早ければ年内に発売される。英ARMの主張通りTegra搭載製品でパソコンOSを搭載した端末と変わりなく各種のネット・サービスを使うことができれば,「UMPC/MID=x86アーキテクチャ」という構図は崩れるかもしれない。