日本メーカーもUMPCやMID製品を開発中である。ウィルコムが7月に発売予定のシャープ製「WILLCOM D4」(写真1)は,Atomを搭載するUMPC製品だ。クラリオンはPND(簡易型カーナビゲーションシステム)の機能を持つAtom採用のMID製品「MiND」(写真2)を開発中で,今年秋に北米で発売する予定である。

写真1●ウィルコムの「WILLCOM D4」(シャープ製)
写真1●ウィルコムの「WILLCOM D4」(シャープ製)
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写真2●クラリオンの「MiND」
写真2●クラリオンの「MiND」
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 松下電器産業が今年10月に発売を予定する「TOUGHBOOK(タフブック)」(写真3)は,工場や物流現場などでの利用を想定したユニークなAtom搭載UMPCだ。現場利用に耐えうる頑丈なボディとAtomによる長時間稼働が特徴である。バッテリー稼働時間は10時間。高密度バッテリーを2本装備でき,動作中のバッテリー交換も可能である。

写真3●松下電器産業の「TOUGHBOOK」
写真3●松下電器産業の「TOUGHBOOK」
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 ただ,日本メーカーは台湾メーカーに比べるとMIDやUMPCに対してやや消極的な姿勢を見せる。東芝や富士通はイベントなどの場で,Atomを使ったUMPCやMIDの試作機を披露しているものの,両社とも商品化については今のところ明らかにしていない。

 背景にあるのは,日本のノート・パソコン事情。松下電器産業の「レッツノート」など,高性能モバイル・ノート・パソコンが普及している。このため,「現在のUMPCやMIDは性能面で中途半端に見える」との指摘が少なくない。

 一方では,「Web 2.0系のサービスに特化した機能を搭載する“とんがった製品”を企画できれば,日本市場でも成功できるだろう」(MID向けOS「Asianux Mobile Midinux」を開発するミラクル・リナックスの吉岡弘隆 取締役CTO,別掲記事参照)との意見もある。台湾メーカーの製品を含めて日本で入手できる端末が増えてくれば,状況が変わる可能性は十分ある。

次世代「Moorestown」が本命か

 登場したばかりのUMPCやMIDは,まだ製品として課題が多い。特にMIDはバッテリーが小さい分,駆動時間が3時間前後と短いなど,未熟な部分が残る。様々なネット・サービスを利用できるとはいえ,「PSP」や「ニンテンドーDS」,「iPhone」といった世界のメジャー・プレーヤのモバイル機器に比べるといくつも見劣りする点があることも否めない。

 ただバッテリー駆動時間は,インテルが2009年以降に出荷する計画としている次世代のモバイル向けCPUプラットフォーム「Moorestown(ムーアズタウン)」で改善を期待できる。Moorestownは現行Atomの後継となるもの。インテルは,さらなる省電力化と小型化を進め,スマートフォンでも使えるようなプロセッサにするとしている。「MIDの商品としての本当のスタートは,Moorestownでバッテリー駆動時間が5~6時間に伸びてからだろう」(あるメーカーの製品開発担当者)との声が挙がっている。

 実は,UMPCやMID向けには様々な技術が投入され始めている。例えばCPUはAtom以外の選択肢もあり,Moorestownの登場の前に他社からもっと画期的なCPUが提供される可能性はある。次回からは,UMPCやMIDを構成する技術を具体的に見ていこう。

“Web 2.0系の端末”に特化すべき
吉岡 弘隆
吉岡 弘隆
ミラクル・リナックス&取締役CTO

 かつて音楽は,家かコンサート・ホールで聴くものだった。これを変えたのがソニーのウォークマン。街中に音楽を持ち出すという新しい市場を作った。任天堂のゲームボーイも,ゲームの場を街中に広げた。これと同じでMIDは,移動中にインターネットを街中で使いたいというニーズに応えられるだろう。

 もちろん今も携帯電話はあるが,文字ベースでの利用が中心。一方,MIDは内蔵カメラで写真を撮ってすぐにブログへアップロードする,ビデオを撮影すると同時に「ustream.tv」でインターネット中継ができる,といった利用イメージになる。

 こう考えると日本でMID市場を立ち上げるには,Web 2.0系のインターネット端末として徹底的に特化するのが良いのではないかと思う。例えば「ニコニコ動画」や「mixi」を提供するサービス・プロバイダと一緒に“とんがった製品”を企画する。ユーザー・インタフェースを作り込めば,1クリックでmixiなどを見られるなど,便利なツールになるはずだ。MIDの要素となる部品はそろっているから,商品化に時間はかからない。ニコニコ動画のヘビー・ユーザーなど,とんがった製品を好むユーザーにアピールできればMIDへのニーズは高まるのではないだろうか。