英BTグループ テクノロジー&イノベーション 日本・韓国担当副社長 ヨン・キム |
EU(欧州連合)内で通信事業を展開する企業の担当者は,2008年6月にEU委員会が出した接続料改定案を精査する日々を送っているだろう。2008年9月3日が締め切りの意見募集に向けて,おそらく夏休み返上でこの作業を続けるに違いない。
EUの接続料改定案は,欧州の各規制当局の770の提案に基づき,5年の歳月をかけて2008年6月26日に発表された。ここで言う接続料とは,音声通話に関する通信事業者間の接続料金のことだ。EU委員会は,音声の接続料の規制が各地域でバラツキが多いために,消費者は不利益を被っていると指摘している。EUは2008年10月にも最終案をまとめる予定だ。
3年で携帯通話料の7割削減を目指す
EUが出した接続料改定案の狙いは,携帯電話の通話料を下げることである。携帯電話の接続料はEU各国で著しい相違があり,固定料金に比較して9倍近くも高い。EU通信委員会のヴィヴィアン・レディング委員は「EUの接続料市場に規制を持ち込み,今後3年間で,携帯電話の通話コストを約70%削減することを目指す」と発言している。
特に同委員会が問題視しているのは,固定電話から携帯電話に通信する際に掛かる着信料金が高いという点だ。これは間接的に携帯事業者を助成しているのと同じと指摘する。例えばその額は,1998年から2002年にかけてドイツ全体で100億ユーロ=約1兆6900億円(EU調査研究レポート),同じ期間,英国とドイツ,フランス全体で190億ユーロ=約3兆2000億円(英COLT・英ケーブル・アンド・ワイヤレス合同調査)にも上るという。
EUの接続料改定案でもう一つ注目すべき点は,接続料を算定するための考え方を明確にしている点だ。算定に際しては,通信量の増加に伴うネットワークの拡張費用だけを含めるべきという方針を打ち出している。携帯端末やSIMカード,人件費に加えて,通信ネットワークの維持コストを算定費用から切り離す考えだ。これは従来の算定基準とはまったく異なる。レディング委員が目指す携帯通話料の70%削減も夢ではない。
国の競争力強化にもつながる
ではなぜ携帯分野に安い接続料が必要なのだろうか。一つは消費者価格が下げられ,もう一つは低い接続料金で新しいイノベーティブなサービスを持っている企業の参入を促進させるからだ。結果として新たな雇用需要を生み,さらに知的創造性に富む経済ができ,国の競争力も上昇する。
例えば英国の固定通信の分野では,規制当局である「Ofcom」が英BTに対して,固定電話の接続料を年率で7~10%前後ずつ切り下げることを義務付けた。この結果,英国の固定電話の接続料金は欧州の平均価格の5分の1となり,消費者は低価格のサービスを享受できるようになった。またBTも市場に生き残るために,国際競争力を磨くきっかけになった。
接続料の改定は地味ではあるが,国の将来性にもかかわる重要な事柄であることを忘れてはいけないと思う。
英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長