エノテック・コンサルティングCEO
米AZCAマネージング・ディレクタ
海部 美知 エノテック・コンサルティングCEO
米AZCAマネージング・ディレクタ
海部 美知

 ネットの“中”でデータの処理や保存を行うやり方が注目を集めている。ネットを雲(クラウド)に見立て,「クラウド・コンピューティング」と呼んでいる。

 定義の仕方はいろいろあるのだが,「ネットでつながった他社保有のサーバーの処理能力や記憶容量を,あたかも自分の端末の一部のように利用する方法」というのが,こちら米国での一般的なとらえ方だ。これに対し,自分のパソコンや自社のデータ・センターですべてのデータを扱うのが,ネットの“端”の考え方で,現在はこれが主流である。

 クラウドの考え方自体はそれほど新しいことではない。例えば1990年代にオラクルが提唱した「ネットワーク・コンピュータ」は同様のコンセプトだった。最近では,2006年に米グーグルのエリック・シュミットCEOがクラウドという用語を使い始め,再び注目を集めるようになる。今年になってから,主要企業がこぞって力を入れている様子が顕著になった。

Web2.0が起こしたクラウド

 今回のネットの“中”へのシフトは,「Web2.0」ブームにより,サービス提供側の技術が成熟し,ユーザー側の心理障壁も下がったという背景がある。

 Web2.0には,「ユーザー生成コンテンツ」や「wisdom of crowd」(群衆の英知)など,いろいろな特徴があるが,共通するのは,データの処理や保存のすべてをネットの“中”に頼ることだ。

 YouTubeにアップロードした動画も,Flickrで共有した写真も,すべて「雲」の中に存在する。GoogleDocs(Googleドキュメント)では,データ蓄積だけでなく,文書を編集するための種々の作業はすべて,「雲」の中にあるGoogleの巨大サーバー群で処理されている。米アマゾンでは,ストレージなどのサービスをWebサイト運営者向けに提供する。企業向けサービスとしては,米IBMが2007年11月に発表した「Blue Cloud」が有名である。

負けじと通信事業者も参入

 こうした「雲」のサービスを生産する工場はデータ・センターである。ここには,サーバーやストレージ,スイッチやルーターが集積している。

 グーグルやアマゾンは,巨大なデータ・センターを自前で建設し,サービスを展開している。しかし,そうした新参者よりはるか以前にデータ・センターを運用してきたのが通信事業者だ。通信事業者にとってデータ・センターは,長年の電話局運用で培ったノウハウを凝縮した重要事業である。この部分を,上位レイヤーのグーグルやアマゾンなどに奪われてはたまらない。

 こうしたことから,通信事業者の大手,米ベライゾン・コミュニケーションズの企業サービス部門は,「On-Demand Computing」というサービスを2009年第1四半期に始める予定である。米国・ドイツ・日本に同社が保有する同社のデータ・センターを核として,世界に展開する企業にコンピューティングとストレージを提供する。

 始まったばかりの「雲」をつかむレース,その行方は未だ混沌としている。

海部美知(かいふ・みち)
エノテック・コンサルティングCEO,米AZCAマネージング・ディレクタ
 NTTと米国の携帯電話ベンチャーを経て,1998年から通信・IT分野の経営コンサルティングに携わる。シリコンバレー在住。
 米国では5月からすでに夏休み映画の季節。今年は特にお金をかけた作品が多いように感じる。次世代DVDプレーヤの普及を見込んだ「ブルーレイ特需」ではないかとにらんでいる。その目論見が当たるかどうかはわからないが,面白い映画が多いのは歓迎。子供たちと大いに楽しんでいる。