自社の強みや弱みを客観的に分析し、具体的な戦略に落とし込む。この際には、従来の商慣習やしがらみに左右されず、関係者がみな恩恵を受ける仕組みを考えることが大切だ。靴下のビジネスで躍進するタビオの取り組みが参考になる。

 厳しい経営環境が続き、多くの中小企業は苦戦を強いられている。しかし、不況業界にあっても躍進を続ける企業が存在する。大阪に本社を置く、靴下専門の企画・卸、タビオ(旧社名ダン)もそんな中小企業の一社だ。2000年、靴下業界では初めて上場という快挙を果たし、イギリスの高級百貨店ハロッズへの出店を機にグローバル展開も始めている。同社の事例から、IT経営の成功の秘訣を考えてみよう。

世界一の靴下屋を目指す

 越智直正社長が、仲間と共に大阪で靴下専門卸を創業したのは1968年のこと。タビオの前身、ダンの誕生だ。

 近隣の奈良県は靴下を製造するニッターの集積地であり、当初はこれらの工場が作った靴下を買い集めては販売していた。やがて自分たちでデザインや企画をするようになり、ニッターに製造依頼したものを販売する「企画・卸」へと発展していった。

 有名な女性衣料専門店内に直営店を持ったり、独自の靴下専門店「靴下屋」をオープンさせたりするなど、徐々にブランド力も高めていった。

 従来の大手靴下メーカーのビジネス・モデルは、「在庫を大量に保有し販売機会を逃さない」というものだった。だがこれは、大量の不良在庫が経営を圧迫することにもつながっていた。企業規模が小さいダンには大量の在庫を抱える資金力などない。加えて、取り扱い商品はファッション性の高い婦人ものが中心だ。多品種少量販売であるがゆえ、消費者の動向を細やかにとらえることこそが会社の生命線だと越智社長は考えていた。

 そこで同社は、まだPOSシステムが普及する前から、品番と色が書かれた管理カードを使って“人海戦術POS”を実践していた。靴下に取り付けた管理カードを販売時に回収。これを本部に集め、1週間ごとに模造紙に管理カードを張り付けて売れ筋の動向を把握していたのである。

 しかし、この仕組みは非常に手間がかかり、タイム・ラグもある。ファッション性の高い靴下は旬の期間が短く、売れ筋商品の欠品や、死に筋商品の滞留を引き起こす事態も起こっていた。「消費者の“息遣い”をリアルタイムでとらえたい」――。これが同社にとっての願いだった。