業務改革に挑む途上には、いくつもの難題が降りかかる。これまでの実例を基に、想定される壁を知っておくことは、プロジェクトを円滑に進める上で大いに役立つだろう。当初の目的を忘れず、「本気」で取り組めば恐れることはない。

 IT経営の重要さに気付いた中堅・中小企業が、いざ実現に向けて改革を進めようとするときに最も重要となるのは、経営者のリーダーシップ、言い換えれば改革に対する「本気度」である。

 いろいろな成功事例を見ると、当初のビジョンをいかにも順調に実現したような印象を受けることも多い。だが実際は、IT活用による業務改革プロジェクトを順調に進めるのには、多くの困難がつきまとう。それは大企業にとっても簡単ではなく、人・モノ・カネの面で潤沢とは言えない中小企業にとっては、なおさらのこと多くの「壁」が立ちはだかるのが現実だ。

 実際、私が支援を手掛けた例を挙げると、業務改革プロジェクトの完遂には相当の時間がかかっている(図1)。A社のプロジェクトは、システムの面で言えば、販売仕入管理のオフコンから、生産管理を加えた統合システムに切り替えるものだった。やはり途中で多くの壁に阻まれ、経営戦略フェーズのスタートから 3年が過ぎてしまった。ようやく動き始めたとはいえ、いまだに、当初の社長の思いのすべては実現できていない。

図1●業務変革プロジェクトの遂行は、思いのほか時間がかかる
図1●業務変革プロジェクトの遂行は、思いのほか時間がかかる
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 B社の例は、中小企業の平均的な進捗度と言えるが、それでも2年を費やしている。少数精鋭のベンチャー企業であるC社は、すでに経営戦略もしっかりできていたため、やるべきことが明確だった。ITコーディネータが彼らの背中をちょんと押すことで一気に改革は進んだが、それでも1年の期間がかかった。

具体的な行動につながらない

 実際に、どのような「壁」が存在するのかを知っておくことは、これから改革を進めようとする企業にとって重要なポイントとなるだろう(表1)。

表1●乗り越えるべき、IT経営推進の壁
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表1●乗り越えるべき、IT経営推進の壁

 まず経営戦略立案フェーズでの壁だ。第2回で取り上げた「重要経営課題の絞り込み」までは、何とか進められる。ところが、儲けの仕組みのシナリオ作り、アクション・アイテム(行動計画)への展開が、なかなか進まないのだ。

 多くの企業は年度経営計画を立てている。そこには経営者の熱い思いが述べられており、経営計画発表会では、社員も発奮したことだろう。しかし現実は、次の日から何も変わらない。誰も動かない。気が付くと、1年が終わろうとしている。

 計画はあっても「誰が、どこで、何を、いつまで、どこまで、どのようにやるのか」といったアクション・アイテムまで落とし込めていないのが最大の理由だ。経営トップの思いを起点に、具体的な行動につなげるのは簡単ではない。ここにしっかりと力を注ぐ必要がある。社員が若いころから習慣付けを徹底し、企業の風土とする取り組みもまた欠かせない。