IT経営を実践するには、社長の思いを起点とした経営戦略企画とIT経営企画の立案が欠かせない。重要経営課題を洗い出し、自社の強みを生かす儲けのストーリーを描く。そして、IT活用で具現化する方策を明確にしなければならない。

 IT経営の重要性に気付いた経営者が進めるべき次のステップは、頭の中にある思いを“形式知”にすること。具体的には経営戦略企画書とIT経営企画書を作ることだ。

 この2つの企画書は「IT経営」へのロードマップでもあり、社員と思いを共有するためのコミュニケーション・ツールでもある。現場の実務担当者にとっても、改革を進めていく上で欠かせないアプローチだ。今回はこれらの企画書作りの概略とポイントを紹介しよう(図1)。

図1●自社を客観的に眺め、経営戦略企画やIT経営企画に落とし込む
図1●自社を客観的に眺め、経営戦略企画やIT経営企画に落とし込む
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 「3~5年後に、どんな会社になっていたいですか?」――。ITコーディネータの支援は、社長が会社の行く末にどのような思いを持っているのかを確認することから始まる。目指すべき方向や目標を明確にし、共有するためだ。業界シェアでトップになりたい、ニッチな分野で技術力ナンバーワンになりたい、保有する技術やノウハウを生かして新分野に展開したい…。こうした思いこそが改革の原動力となる。

社長の思いをデザインする

 しかし、その思いが社会環境や業界環境、企業の実力からかけ離れたものであれば、実現は望めない。「思い」とはいえ、経営環境や実力とのすり合わせが必要となってくる。

 世の中の変化は、中堅・中小企業にとって、決して逆風ばかりが吹いているわけではない。自社を取り巻く経営環境の変化を、それが自社にとって脅威なのか、チャンスなのかをしっかりと見極め、やるべきことを明確にすることが重要なポイントだ。

 現在、そして将来の経営環境の変化を読み解くカギはいくつかある。顧客の好みや行動の多様化、インターネットの台頭、電子商取引の普及と企業間取引の構造変化、経済のグローバル化などは、中小企業にも大きな影響を及ぼす。

 例えば自動車メーカーは、取引業者との部品の受発注をWeb-EDI方式と呼ばれるインターネット調達で実施するようになった。これに対応できない部品メーカーは、残念ながら取引の土俵には上れない。厳しいグローバル競争で戦っている自動車メーカーにとってみれば、取引先がどんなに高い技術力を持っていても、経営の効率化を妨げるようであれば不要というわけだ。ITは経営の道具であると同時に、もはや経営環境そのものになっている点を見逃してはならない。

 その一方で、ITは危機だけなく多くのチャンスももたらしてくれる。商店街の布団店から“安眠支援企業”への大変身を遂げた「蚊帳の菊屋」(静岡県磐田市)、技術情報をホームページで惜しみなく開示して新規顧客開拓に成功した「東海バネ工業」(大阪市)など、地方の中小企業がインターネット上で“ブランド化”に成功した例が実証している。