Anthony Bradley氏
米Gartner
Managing Vice President
Anthony Bradley氏

 ネットワークはより便利に、より賢くなろうとしている。プレゼンス情報を使って人々の今の状態を把握するだけでなく、未来における人々の状況を予想することも可能になるという。米Gartnerのアナリスト、Anthony Bradley氏が、ネットワークが創る社会システムの未来像を提起する。
(編集・構成は矢口 竜太郎=日経コンピュータ)



 今日は、WiMAXについてお話ししましょう。テレコムセクターについて、2.5Gから3G、4Gというモバイルネットワークの進化についてお話ししましょう。なぜなら、これこそがビジネスで問題になる点だからです。

 ウソです。ビジネスではネットワーク帯域やモバイルなんていう話は出てきません。少なくとも、コンピューティングサイクルやストレージアレイよりも気になるなんてことはありません。

 もちろん、それらはいずれも重要なポイントです。でも、これはあくまでドアを通るためのチケットに過ぎません。このチケットでショーを楽しむことはできないのです。つまり、価値は得られません。価値は、その接続性を活用することにより得るものだからです。

 テレコムセクターは、接続性の推進によって既得権益が得られます。でも、ビジネスで問題となるのは、その接続性を活用してビジネス上のメリットを生みだすことです。この接続性は、興味深いビジネス課題を見つけるソリューションなのです。

 ビジネスコミュニケーション用の技術について、従来とまったく異なる価値を提供するためには、いろいろなことを実現する必要があります。ひとつだけ、確実に言えることは、帯域が「広いほどいい」という考え方やサービスで「つながらないケースを極力減らす」という単純な考え方のイノベーションでは、もう効果はほとんどないということです。

 それどころか、そんな考え方ではマイナスの効果さえ生まれかねない状況となってきました。我々は、ネットワークに翻弄され、過大な負担を背負わされるようになってしまいました。「電子メールが多すぎて」などと冗談を言える状態ではなくなったのです。冗談ですまない状態になってしまったのです。

Anthony Bradley氏

 一見人畜無害に思えるコンピューター汚染がまん延し、四六時中、自動的にじゃまが入るため、生産性も活力も落ちてしまいました。メッセージの猛吹雪に埋もれて1日が過ぎてしまう。そして、今日1日、何ができたのだろうと思いつつ、家路につくと、やらなければならないことのリストがまったく減っていない。これはなぜなんだろうと首をひねるわけです。

 接続性により、社員の能力や成果は改善されません。接続性により、国全体の生産性が上がることはありません。今後、テレコムプロバイダーは、接続性を超越し、真のビジネス価値を支える「見えないモビリティ」を提供することを目標としなければなりません。

 この点を理解せず、接続性さえ提供すればいいと思うテレコムプロバイダーは、「単なるパイプ」だとみなされ、コモディティ化し、ぜい弱となり、最終的には消え去る運命となります。

 今後は、接続性ばかりが問題とされることはなくなります。と言っても、人々の意識が変わり、もっとたくさん欲しいと思わなくなるからではありません。あまりに「愚かな」ネットワークが、少しずつマシになってゆくからです。

 では、事業者が目を覚まし、通信に対して新しいものを求めるようになるためには、何が必要なのでしょうか。これは一言で表すことができます。「コンテキスト(文脈)」です。次の目玉となるべきものは、すでに芽吹いており、ゆっくりと成長しているのです。