前回に続き、顧客折衝に関する課題を取り上げる。プロジェクトを大きな混乱なく推進するためには、顧客に色々な場面でお願いしなければならないことが多い。当然、すべての請願が認められるほど簡単なことではない。折衝相手とお願いするタイミングを見極めると同時に、しっかりした論拠を持ち誠意を持って折衝することが、少しでもいい成果を引き出す道である。

330日目●タイミング交渉成否の鍵握る

 システム開発プロジェクトの成功のためには、顧客といい関係を構築することが肝要だが、プロジェクトの進行とともに色々な問題が発生し、顧客に対する報告、お詫び、請願、改善要求などが避けられない。顧客にとって迷惑なことでも、問題解決のためにはあえて申し出なければならないことがある。ただ同じ報告、請願、お詫びであっても、そのタイミングによっては、逆効果になったり回復不能の事態に陥ったりすることがあるので、顧客とは計画的に交渉すべきである。

 例えば、機能が増えてしまい値増しを請願せざるを得ない場合、顧客の予算期のタイミングに遅れないようにすることが肝心だ。顧客の次期予算が確定した後に予算増額を請願しても受け入れてもらうことは難しいだけに、予算作成が始まる直前に申し入れたい。

 すなわち、相手の立場に立ってタイミングをよく考えないと、交渉は成り立ちにくいということである。


331日目●結論を急ぎすぎると行き詰まる

 顧客とベンダーの間で取り決めなければならないことは多いし、なるべく早く明解に取り決めることが、プロジェクトを順調に推進するための大事な条件ではある。しかし、慌てすぎるのも問題なことは認識しておきたい。

 契約後における最初の関門は仕様の早期凍結であり、これがシステム成否の鍵であることは間違いないが、顧客の考えがまとまり切らないうちに、あまりに急かせすぎると顧客の不満は高まるし、後から仕様変更要求がやたら出てくる心配もある。

 このあたりをうまくこなすためには、大事な基本的仕様と付加的仕様をしっかり見極め、基本的仕様については早期凍結を頼む必要がある。ただ、付加的仕様は全体が見えてから決めた方がしっかり決まるし、場合によってはそんな機能はいらないという結果になることも考えられる。


332日目●普段から対話で舗装交渉道

 プロジェクトの成功のためには顧客と一緒に同じ船に乗り、共に汗をかく必要があるが、顧客もベンダーも共に、業績面でよりいい成果を出そうとすると、利害が反する場合が多いので互いに厳しい交渉も必要になってくる。こうした厳しい交渉が互いに何とか我慢できる範囲に決着するためには、顧客とベンダーの間で、本音で議論し合える関係を日ごろから構築しておくことが求められる。

 そして何より、SEが顧客から人間的にも技術的にも信頼されていることが大事である。SEとしては顧客の業務内容、業界情報、今後の経営目標などについてフランクに聞かせてもらうとともに、ITの現状や今後の動き、他業界のITのトレンドなどについては情報提供に努め、互いが議論し合える機会を作っていきたいものである。


333日目●予告編あれば本番聞きやすい

 顧客との会議で、顧客に歓迎されない話をしようとするなら、事前に顧客窓口や責任者に状況を漏らしておく必要がある。顧客の幹部が出ている会議でいきなり顧客担当者の面子をつぶすような話をしては、顧客の信頼は一気に失われてしまう。

 工程の遅延など、具合の悪い話をする場合は、決して隠さず早めに少しずつ状況を説明し、相談し始めることだ。会議の席で、顧客にとって不愉快な報告をいきなり始めたのでは、とても納得して聞いてもらえないであろう。

 一方、膨張しすぎた仕様の削減や追加予算の申請などの交渉の場合においては、早めにそういう請願が出そうだと覚悟をしておいてもらえるよう、少しずつ状況をリークしておく。いきなり「だめ」と言われて交渉が頓挫してしまう危険がなくなり、少しは聞いてもらえるようになるであろう。