第4回では,システム開発プロジェクトで起こりがちなコスト膨張のからくりについて,主にベンダー側の視点から説明しました。

 ではユーザー企業は,ベンダーに任せっきりにして,膨れ上がるコストを眺めているだけでよいのでしょうか?あるいは,「絶対に追加費用は一銭も認めないぞ」とベンダーと強硬に交渉して,予算内で吸収するように持っていけばよいのでしょうか?

 今回は,ユーザー企業がプロジェクトを円滑に進め,なおかつコストを最低限に持っていける方法について解説しましょう。

随意契約では,開発コストが高くなる

 第1回にも述べたように,システム開発プロジェクトはほとんどの場合,プラント建設で言うところの“改造プロジェクト”に相当します。

 “改造プロジェクト”では,ユーザー企業の内部事情を知っている特定のベンダー(既存システムの開発を担当したベンダー)が,仕様を確認するうえでは非常に有利になります。しかし,内部事情をよく知っていれば安くなるかというと,それは逆で,一般には何も知らないベンダーのほうが詳細情報を知らない分,その企業特有の仕様を無視して見積もるので安くなります。

 ユーザー企業がベンダーを選定する際は,競争見積もりで何も知らないベンダーに安値で発注するか,それとも内情に詳しい特定のベンダーに「随意契約」で高い値段で発注するか---という判断を迫られるわけです。

 何も知らないベンダーに安値で発注すると,見えなかった仕様の部分が後で追加コストとして発生したり,当初の予定に入っていなかった部分が原因でスケジュールが守れなくなったり,技術的な解決に手間取ったりと,ユーザー企業とベンダーとの間でトラブルが発生しやすくなります。

 一方,こうしたリスクを避けるために競争見積もりを避けて,高くても内情をよく知っている特定のベンダーに「随意契約」で発注すると,ベンダー側に「知恵を絞って開発予算を最低限に抑えて競争見積もりに勝つ」というインセンティブが働きません。むしろ,「開発リスクを上乗せした形で開発予算を設定する」という方向に行きます。すると,

開発コスト=ベンダーの十分な利益と十分なリスクマネーを見込んだ価格

となってしまいます。随意契約で発注するとコストが膨らむことは,プラント建設では「常識」です。

 同じベンダーに対して随意契約を続けていると,ユーザー企業にとっては,システムの中身が「ブラックボックス」になります。そうなると,開発の主導権を完全にベンダーに握られてしまい,見積もり自体が妥当かどうかの評価もできなくなってしまいます。競争見積もりのように,最低限の相場価格が分かるわけでもありません。

 さらに悪いことに,ユーザー企業の担当者は,開発費用をミニマムにするようなプロジェクト運営の訓練を受けていませんし,開発費用を最低限に抑えても,だれに褒められるわけでもありません。むしろ,開発費用を絞ったために技術的なトラブルやベンダーとのトラブルが発生してスケジュールが遅れると,責任を追求されることがほとんどです。その結果,随意契約で発注したベンダーの言うことを聞いて,ベンダーに十分な費用的余裕を与え,リスクマネーを上乗せした形の予算を組んで発注する方向に傾きます。本来は費用対効果を見計らった適正な予算を組むべきなのに,費用対効果を超えた予算になってしまうわけです。