by Gartner
ケン・デュレイニー VP兼最上級アナリスト
田崎堅志 バイスプレジデント

写真●米アップルの携帯電話端末「iPhone 3G」
写真●米アップルの携帯電話端末「iPhone 3G」
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 7月11日、アップルは日本を含む世界各国で携帯電話端末「iPhone 3G」を発売した(写真)。2007年6月に発売したiPhoneの2代目で、通信速度の高速化、GPS(全地球測位システム)の搭載といった強化が図られている。端末価格も399ドルから199ドルに引き下げられた(8Gバイトモデルの場合)。

 企業ユーザーに焦点を当てた機能強化もある。例えば、米マイクロソフトのグループウエア「Exchange Server」とのリアルタイムの同期をサポート。会社のメールサーバーに届いたメールは即時にiPhoneにも届く。カレンダーやアドレス帳も同期する。

 iPhone 3Gにはアップル以外のソフト会社が作成したアプリケーションソフトをインストールできる。アップルはソフト開発を容易にするSDK(ソフト開発キット)も用意する。今後、業務アプリケーションを提供するソフト会社が多数登場すると期待できる。

 企業向けの機能で大幅な改良があった一方で、メールの管理や業務アプリケーションの豊富さ、セキュリティなどに未成熟な部分が残る。アップルは今後これらの部分を改良してくるだろうが、現時点ではカナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)の「Black-Berry」やマイクロソフトの「Windows Mobile」搭載機種が一歩先行している。以下、iPhoneを企業導入する場合を想定して、特徴と課題をみていこう()。

図●iPhone 3Gの企業向け機能と評価
図●iPhone 3Gの企業向け機能と評価
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メール同期機能は合格点

 購入してすぐに使えるExchangeとの同期機能は「まずまず」といったところだ。Windows Mobileとはほぼ同等の機能といえるだろう。社内でExchangeを利用し、モバイル環境でメールやスケジュールの同期を求めるユーザーには十分な機能を備えている。

 Exchangeを自前で運用できない中小企業では、アップルが提供する個人ユーザー向けサービス「MobileMe」を活用する手がある。グーグルやヤフーが無料で提供するメールやカレンダーのサービスにそっくりだが、Exchange同様にiPhoneと完全に同期できる。利用料金は1ユーザー当たり年額99ドル(訳注:日本では年額9800円)で20Gバイトのストレージを利用できる。

 また、iPhoneのメールクライアントでメールサーバーにPOPやIMAPで直接アクセスする方法もある。ただし、この方法ではリアルタイムのメール同期はできない。

業務アプリがそろうのは2~3年後か

 iPhone 3G向けに数多くの業務アプリケーションの登場が期待できそうだ。SDKのベータ版はiPhone 3Gの発売までに累計25万本がダウンロードされた。ソフト開発者の大半は業務アプリケーションソフトの開発を目指しているとみられる。iPhone 3Gは70カ国で販売されるため、ソフト開発者のすそ野も広い。業務アプリケーション開発にかかわる企業や開発者は今後さらに増えるだろう。

 ただし、一通りのソフトがそろうには今しばらく時間がかかる。アップルがiPhoneの企業導入に力を入れ始めたのは、7月のiPhone 3Gの発売とほぼ同時のタイミングだ。そのため、先行するWindows MobileやBlackBerryに比べると、業務アプリケーションの絶対数が不足している。システムインテグレータがiPhoneの販売体制を整えるにも時間がかかる。

 アップルは業務アプリケーションのサポートを改善し続けるだろうが、ラインアップが充実するまではおそらくもう2、3年は待つ必要があるだろう。

 アップル側で実装すべき業務アプリケーションのうち、現時点で存在しないものもある。例えばiPhoneを内線電話として利用する機能がない。企業内でのプレゼンスやユニファイドコミュニケーションの実装に関してもアップルは言及していない。