神谷 慎吾
NTTデータ 技術開発本部 ソフトウェア工学推進センタ シニアスペシャリスト

田中 久志
NTTデータ 技術開発本部 ソフトウェア工学推進センタ シニアエキスパート

 システム振舞い編が対象とするのは「システム化業務フロー設計」などと呼ばれる工程である。ここでシステム化する業務の範囲や内容、処理の流れを決めた上で、業務一覧表や業務フロー図を作成する。

 この工程では、どの業務をシステムに任せるかを業務フローをよく知るユーザーが明確に認識することが大切である。そうしないと、外部設計の担当者はシステムと業務の境界線をどう考えればよいか迷ってしまう。

 業務一覧表や業務フロー図を作成する際には、ユーザーが業務全体を把握しやすくしたり、システム化する部分を分かりやすく表現する工夫が必要になる。システム振舞い編では、そのためのコツを58個示した(表2)。

表2●システム振舞い編で紹介するコツ
表2●システム振舞い編で紹介するコツ

 システム化業務一覧表を記述する際に、業務の構成要素(機能)を大分類・中分類・小分類などとグループ化する、というのがコツの一例だ。

 各機能の処理概要は表形式で整理することが多い。図4左はグループ化せずに表を作成した例である。機能の数が少なければ、これで業務の全容を把握できる。

図4●システム化する業務はグループ化してまとめる
図4●システム化する業務はグループ化してまとめる
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 しかし機能の数が多くなり、100個を超えるような場合は、機能が列記されているだけでは理解しにくい。機能やその内容の重複や漏れを洗い出すのも容易でない。そこで図4右のように各機能をグループ化しておけば、機能の数が多くなってもユーザーは全体の把握が容易になる。

 一方、システム化業務フロー図を記述するコツには、全体の流れを大くくりに把握するための図、詳細を説明した図、などと複数レベルの図を作成することが挙げられる(図5)。

図5●システム化業務フローは全体感を共有してから詳細説明に進む
図5●システム化業務フローは全体感を共有してから詳細説明に進む
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 業務全体がどのような流れになっているかを把握せずに、いきなり「在庫がある場合のシステムの動きは…」などと詳細な業務フローを設計していくと、個別最適の設計になりかねない。特にシステム化業務フローを作成する初期段階では、ユーザーに分かる業務の言葉を使って全体の流れを示す図を作り、ユーザーと設計担当者の双方で内容を確認するのが望ましい。

 合意できたら、システム化する業務の範囲や業務の流れといったシステムの振る舞いをより詳細に記述した業務フロー図を作成する。図の記述方法についても、ユーザーのレベルに応じて分かりやすいアイコンを使うといった工夫が必要である。

 この記事は、実践的アプローチに基づく要求仕様の発注者ビュー検討会が2008年に作成・公開した「発注者ビューガイドライン」を参考に作成されています。実践的アプローチに基づく要求仕様の発注者ビュー検討会には、以下の企業が参加していました。株式会社NTTデータ、富士通株式会社、日本電気株式会社、株式会社日立製作所、株式会社構造計画研究所、東芝ソリューション株式会社、日本ユニシス株式会社、沖電気工業株式会社、TIS株式会社。