2004年7月に新潟県と福島県を襲った豪雨では、堤防が決壊し、5000棟以上が浸水した。
2004年7月に新潟県と福島県を襲った豪雨では、堤防が決壊し、5000棟以上が浸水した。温暖化で日最大降雨量が増加すれば、被害が拡大する
写真/共同通信
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 今年の5月2~3日、ミャンマーを大型サイクロン「ナルギス」が襲った。国連の推計によれば、死者・行方不明者の数は最大10万人と、ミャンマー史上最悪の災害になった。
 「巨大災害となった主な原因は、イラワジ川のデルタ地帯を襲った高潮だ。この地域は、これまで台風が通過しない地帯と考えられていたため無防備だった。科学的な証拠はないが、地球の気象システムが変化している予兆といえるかもしれない」と言うのは、高潮災害に詳しい三村信男・茨城大学広域水圏環境科学教育研究センター教授だ。

首都圏400万人に高潮リスク

 高潮は、台風や発達した低気圧が沿岸地方を通過する時に起こる海面上昇のことである。日本でも、5000人を超える死者を出した1959年の伊勢湾台風では、愛知県と三重県で広範囲の高潮浸水が起きた。高潮堤防の整備が進んだ現在でも、例えば2004年の台風16号は大潮の満潮時と重なったこともあって、全国で死者・行方不明者17人を出す被害が報告されている。

 「地球温暖化による海面上昇は、世界各国で高潮リスクを高める。日本は人口が沿岸地域に集中しているので、もし高潮堤防が決壊すれば、伊勢湾台風以上の大災害になる」と、三村教授は指摘する。三村教授は東京、名古屋、大阪の3大都市圏で、このまま温暖化が進むと高潮リスクがどれくらい大きくなるか、シミュレーションした(図1)。

図1●温暖化した場合の東京近辺の浸水予測
図1●温暖化した場合の東京近辺の浸水予測
IPCC第4次評価報告書では、温暖化によって2100年には海水面が最大59cm上昇する(A1FIシナリオ)。図は、東京で満潮時に過去最大規模の高潮が襲うと、海水位より低くなる領域を示した。このシミュレーションでは、堤防があることは考慮していない

 高潮リスクは、もし高潮堤防が無い場合にどこまで浸水するかという潜在リスクで示す。例えば、現在でも関東平野のゼロメートル地帯では、堤防が無ければ満潮時に117km2が浸水するので、これが現在の潜在リスクに相当する。

 では、100年後にはどうなるか。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書では、2100年には最大59cmの海面上昇が起こると推定している(化石エネルギーに依存した高度成長社会A1FIシナリオ)。この場合、満潮時の浸水域は204km2と倍増する。そこにさらに、関東地方を襲った台風の中で過去最高レベルの高潮が押し寄せてきた場合、浸水域は322km2とさらに拡大する。埼玉県越谷市まで水に浸かり、400万人以上が被害を受ける。

 こうした高潮災害を防ぐために、「過去最大の高波より5m高い災害も食い止められる高潮堤防の整備が進められているが、今後は温暖化による海面上昇を想定した対策を長期的に進める必要がある」と三村教授は訴える。