「メタル回線をNGN(次世代ネットワーク)に収容する経済性について検討する」──。NTT持ち株会社の三浦惺社長は,5月に発表した「新・中期経営戦略」の会見の中で,加入電話網(public switched telephone network,以下PSTN)の今後の扱いについて,選択肢の一つを初めて公にした。

 PSTNは100年以上,通信サービスの屋台骨であり続けてきた。これを,新たにIP技術で構築したNGNで網の部分を置き換え,アクセス部分はメタル回線のまま使い続けられるようにするというのだ。

 これまでNTTは次世代ビジョンとして,光化したアクセス回線と電話網並みの信頼性を持つNGNとを組み合わせる,としてきた。三浦社長の発言はこの基本路線をひっくり返しかねない移行計画と言える。

交換機の寿命はメタル回線のそれより早い

 携帯電話やIP電話などの普及で,PSTNの通信量は減少し続けている。NTTは2002年から,PSTNの採算性確保のため新規の設備投資を原則停止してきた。

 しかし,投資を止めた通信設備は,いつまでも使い続けられるものではない。NTTは現行の加入電話サービスを今後も継続して提供していくうえで,「ユーザー宅まで引いたメタル回線の寿命よりも,電話網を構成する交換機が維持できなくなる時期の方が早くやってくる」(鵜浦博夫常務,肩書きは取材時)という見通しを明らかにした。

 さらに象徴的なのが,加入電話サービスの契約者数だ。2008年3月末時点の契約者数は,ついに東西合計で4000万件を切った(図1)。ピーク時には6000万件を超えていた契約者数のうち3分の1が,ひかり電話や他社の直収電話に移行したか,あるいは固定電話の使用をやめたということだ。

図1●加入電話とひかり電話の契約者数の推移<br />加入電話の契約者数(ISDNは除く)は携帯電話などの代替サービスが普及したことに加えて,ひかり電話が登場したことで急速に減少を始めた。このペースでは2010年代早々にも,ひかり電話の加入者数と逆転しそうだ。
図1●加入電話とひかり電話の契約者数の推移
加入電話の契約者数(ISDNは除く)は携帯電話などの代替サービスが普及したことに加えて,ひかり電話が登場したことで急速に減少を始めた。このペースでは2010年代早々にも,ひかり電話の加入者数と逆転しそうだ。
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2010年代初頭,ひかり電話に抜かれる

 このペースで加入電話契約者の減少が継続すると仮定すると,2010年ころには加入電話の契約数は2000万件前後となり,ひかり電話の契約者数とほぼ同等となる。2010年代の早い時点では,ユーザー規模が逆転する見通しである。

 こうした状況に対してNTTは,NGNによる電話サービスのIP化を推し進めてPSTNを「消滅」させるのか,それとも限界までPSTNの「延命」を図るのか。次回以降でそれぞれの可能性を探る。